第7話

部活動や委員会のない生徒たちが帰宅すると、さすがに静けさが学校内に立ち込めていた。



それでも部活のある各教室からは人の話声が聞こえて来るし、グラウンドからは大きな声かけも聞こえて来る。



「さて、そろそろ行くか」



用事のない生徒たちが充分に帰宅した時間を見計らい、幸生が立ち上がった。



今まで4人で1年B組の教室にいたのだ。



外はオレンジ色に染まっていて、昨日と同じような光景が広がっている。



でも、今日は4人もいるのだ。



昨日のような気味の悪さを感じることはなかった。



つぎはぎにされた校舎のシミやジメジメとした空気も、昨日ほど気にならない。



病は気からというけれど、恐怖心だってきっと同じだ。



「放課後ってやっぱり怖いねぇ」



前を歩いていた一穂がそう言い、幸生にピッタリとくっついている。



幸生が今どんな顔をしているのかわからないが、ないがしろにしていないところを見るとやぶさかではないのかもしれない。



あたしは隣を歩いている充弘にチラリと視線を向けた。



背が高いから見上げないといけない。



そこにはクッキリとしたシャープな輪郭があり、大きな目が前を歩く2人を見ている。



その様子を見ているだけで心臓がドクドクと跳ねて来る。



充弘はあたしのことをどう思っているだろうか?



クラスの中では仲がいいと思うけれど、なんせ充弘はよくモテる。



あたしなんてただの友達で眼中にないかもしれない。



そう思うと途端に寂しく感じた。



一穂は一生懸命アピールしているけれど、あたしは自分の立ち位置がわからなくて動けずにいる。



このままじゃ一穂に先を越されてしまう。



そう思った時だった。



「危ない!」



と、真横から声が聞こえてきて、次の瞬間あたしは充弘に抱きすくめられていた。



なにが起こったか分からず、頭の中が真っ白になる。



少しずつ冷静さを取り戻して周囲を確認してみると、階段がすぐ目の前にあることがわかった。



「ご、ごめん!」



あたしはすぐに充弘から離れて謝った。



体が熱を持っているように熱い。



きっと今、あたしの顔は真っ赤に染まっていることだろう。



「なにぼーっとしてんだよ。危うく階段から落ちるところだったぞ」



充弘が怒った口調で言う。



しかし、充弘の手はあたしの手をきつく握りしめていた。



まるで、まだ階段から落ちるのを心配しているかのようだ。



その温もりだけで緊張感が増していくし、なによりついさっきあたしは充弘に抱きしめられていたのだ。



その事実に体中が沸騰しそうだった。



「ちょっと美知佳、やるじゃん」



一穂があたしに耳打ちをしてきた。



違う。



そんなんじゃない!



と言おうとするが、口をパクパクさせるだけで言葉にならなかった。



「なにしてんだよ、ドジだなぁ」



幸生が明るい声でそう言い、笑い声を上げたのだった。


☆☆☆


それからあたしたちは各階のエレベーターの前で立ちどまり、ボタンを押したり扉を開こうとしてみたが、やはりビクともしなかった。



「噂はただの噂だったのかぁ」



1階まで降りて来た時、幸生が残念そうな声で言った。



1階も昨日とは違い、各教室から光が漏れていて話声が聞こえて来る。



「まぁ、そんなもんだろうな。俺、そろそろ部活行くから」



充弘がスマホで時間を確認してそう言った。



どうやらタイムリミットのようだ。



「おう。頑張れよ~」



部活へ向かう充弘を4人で見送ったのだった。

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