第4話

適当にごまかせばいいのだろうけれど、充弘からの質問だったので嘘をつきたくないと思ってしまったのだ。



「まじで? 本当になにかあったのか?」



好奇心をくすぐられたようで、幸生が身を乗り出してそう聞いて来た。



どうしよう。



本当のことを言ってみようか?



ギュッと握りしめた拳に汗が滲んできた。



本当のことを言ってみんなは信じてくれるだろうか?



それとも笑われる?



「夢でもなんでもいいから、そういう話聞きたいんだけど」



幸生に言われて、あたしは息を吐きだした。



一穂と充弘も聞きたそうな表情になってきたので、話すしかないみたいだ。



「実はね、昨日忘れ物を取りに戻って帰る時に……」



あたしは昨日の出来事をできるだけ丁寧に説明した。



1階まで降りてきた時に聞こえて来た機械音。



そして、上るボタンが光ったこと。



一通り説明を押せたとき、一穂が自分の両腕をさすって「こわ~い!」と声を上げた。



対する充弘は「寝ぼけてたんじゃないのか?」と、すごく冷静だ。



充弘の反応にガッカリするものの、一番話を聞きたがっていた幸生は満足そうにほほ笑んでいる。



「やっぱりな。あのエレベーターに関する怪談はなにかしら存在すると思ってたんだ!」



自信満々にそう言い、自分で納得したように何度も頷いている。



「どうしてそう思ってたの?」



一穂の質問にすかさず「エレベーターがついている学校なんて滅多にないからだよ」と、即答した。



確かに、生徒が使用できるエレベーターがついた学校はなかなかないだろう。



でも、それはこの学校が昔障害者向けの学校だったからだ。



そこを残したまま増築するということも珍しいかもしれないが。



「だから朝からエレベーターのことを聞いてきたんだね」



一穂の言葉にあたしは頷いた。



「本当に壊れてるのかどうか、確認してみないか?」



幸生が閃いたように言う。



しかし、あたしの話を聞いたときからそのつもりだったのだろう。



さっきからソワソワと体を左右に揺らしている。



「そうだな。壊れてたら一穂が夢を見てたってことだ」



充弘の言葉にあたしはプッと頬を膨らませたのだった。


☆☆☆


休憩時間中、あたしたち4人は古い校舎へと移動してエレベーターの前に立っていた。



「このボタンが光ったんだな?」



充弘があたしへ質問しながら、答えを待つこともなくボタンを押した。



ボタンはカチッと音を立てるが光らない。



「やっぱり、反応してないんじゃない?」



充弘の横から一穂が言う。



「そうなのかな……?」



昨日は確かに聞こえて来たエレベーターの音も、今はなにも聞こえてこなかった。



「それとも、放課後にならないと動かないとかな?」



まだ怪談話しを続けたい幸生が、わざと低い声を出して言う。



「放課後、1人の時にだけ動くんだ。エレベーターの扉が美知佳の前で開いた瞬間、中から幽霊が!!」



脅かそうとしてあたしの肩をドンッ!と叩く幸生。



でも、さすがにそんなことじゃ驚かない。



あたしは幸生を睨み返してやった。



「そんなことは起こらない。だけど、確かに光ったのになぁ」



あたしは首をひねって上りのボタンを見つめる。



自分でも何度か押してみるが、やはり反応はなかった。



「もしかしたら、雷の光に照らされて勘違いしたんじゃない?」



ふと閃いたように一穂が言った。



「雷の光?」



「そうだよ。昨日は雷雨がすごかったんだもん。ボタンはプラスチックで、外からの光でキラキラ光るでしょう? それを見て、勘違いしたんじゃない?」



もっともらしい意見に、あたしは曖昧に頷いた。



そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。



だんだん、自分が見たものが信じられなくなってきた。



4人で突っ立ってそんな雑談をしていると、担任の先生が「授業を始めるぞ。そんなところでなにしてる」と、声をかけて来た。



「そうだ、先生に聞いてみればいいんだ」



この学校の先生ならエレベーターが壊れているかどうか、知っているはずだ。



そう思ったあたしはすぐに先生に駆け寄った。



「先生! このエレベーターって本当に壊れているんですか?」



「エレベーター? あぁ、もう何年も前から使われてないからなぁ。動いたところは先生も見たことがないんだ」



先生も見たことがないということは、随分前から停止しているのだろう。



「誰かがイタズラでドアを開けたりしないように、頑丈に溶接されてるらしい」



「そうなんですか……」



あたしはエレベーターのドアを見つけて呟いた。



溶接されているのから、誰から乗ることも不可能だ。



「さ、教室へ戻れ」



先生に促されて、あたしたちは1年B組の教室へと戻ったのだった。

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