第45話 ソルジャーアントの真実
「ちょっとテイル!」
その声が聞こえた時には、俺の両肩はリーナにガッチリと掴まれ、身動きができなくなっていた。
「あれはなに?どういう魔法なの?」
「な、なにって、ただの初級の土魔法だけど」
「そんなわけないじゃない!いくら土魔法で強化したレンガだからって、騎士の剣を折る強度ってなると、それはもう『上級職』にしか――」
リーナに体を揺さぶられながらの問答だったので定かじゃないけど、そこで言葉が止まった気がした。
揺さぶりも止まったので改めて見てみると、リーナの肩にジオの手が置かれていた。
「ストップだ、リーナ。ここに連れて来る時に言ったはずだ、僕の邪魔はしないとね」
「で、でも……」
「君の言い分もわからないじゃないが、あいにく僕達には時間がない。これからテイルに、重要な説明をしないといけないんだ」
その時、セレナさんとナイスミドル以外の、天幕の中にいた騎士達が、いつの間にかに全員いなくなっていることに、ジオの言葉で初めて気づかされた。
「それはそれとして、リーナ、君はどうする?一応、ここに来る前に、冒険者の君に対して守秘義務を要求したけれど、これからこの天幕の中でする話を聞くのなら、さらに厳しい制約を課すことになる。下手をすれば、君の実家ですら負い切れないほどの責任と共にね」
「っ――!?」
相変わらず要領を得ないけど、いつになく真剣なジオの物言いに、リーナが俯いた。
まるで、あのダンジョンで俺を置き去りにした時の顔を、また見ているかのように。
「悪いけれど、考える時間も与えてやれないんだ。今、この場で決めてくれ」
あるいは、俺のこの勘違いこそが、リーナの決断を予感していた証なのかもしれない。
そう思えるほどに、顔を上げたリーナの返事は明確だった。
「いいわ。その話、聞かせてちょうだい」
「さて、アレックスにも理解してもらえて、人払いも済んだことだし、本題に入ろうか」
騎士達が出て行った代わりに、テーブルに据えられていた椅子に、俺、リーナ、ジオ、そしてナイスミドルのアレックスさんが座った。
残るセレスさんは、ジオの護衛として外への警戒が必要らしく、天幕の入り口付近に待機している。
全員が腰を落ち着けたところでジオが頷くと、アレックスさんが口火を切った。
「まずは自己紹介させてもらおう。私の名は、アレックス=レガルト。烈火騎士団の副団長の一人にして、第六部隊を預かる部隊長だ。ここには麾下の百名の騎士を連れて、極秘任務に当たっている」
「あ、はい。俺はテイルです。家名はありません。ただのテイルです」
「うむ、テイルと呼ばせてもらおう。よろしくな」
厳密には名はあるんだけど、俺はあえてアレックスさんにそう答えた――ゴードンから無理やり持たされた名なんて、名乗りたくはないから。
「私のことは……紹介しなくても知っているのかしら?」
「ああ、リーナ嬢。そなたの御実家のことも含めてな」
「今は、家名を名乗ってはいないわ。そのつもりで接してもらえると助かるわ」
「わかった。一冒険者――と言うのは難しいが、できるだけ努力しよう」
リーナとのあいさつの後、そこで一旦言葉を切ったアレックスさんは、テーブルの上――俺達が入って来る前から置かれていた地図を広げ直した。
「これから話す内容は、非常に高度な軍事機密だ。ここでの話が外部に漏れた場合、最悪反逆罪で処刑され、近親者にも類が及ぶ危険があることを、最初に断っておく。覚悟は良いかね?」
「ええ、いいわ」
「え?いいわけがな――」
「君たちの覚悟は分かった。では状況を説明しよう」
覚悟の決まったリーナの返事を聞き、覚悟のかの字も決めてない俺の返事を聞き流した、アレックスさん。
――ちょっと待って。どういうこと???
「コホン。テイル、君には悪いが、戦時下の非常呼集という形で、私の権限を使って身柄を押さえさせてもらう。もしこの場から逃げ出せば、相応の罰と罰金が科されるので、そのつもりでいてくれ」
「そ、そんないきなりっ!?一体いつから!?」
「若には少し前から提案されていたが、決めたのは今しがた、だ」
今?今って、そんな大したことは起きて――
あっ!?さっきのレンガ!!
「どうやら納得してもらえたようだ――話を続ける。事の始まりは、とある昆虫型魔物が大挙して突如出現し、とある街の中を蹂躙したという報告が、とある筋から届けられたことがきっかけだ」
全然納得していないところにまたもやアレックスさんが勝手に話を進め、どこで反論すべきだろうかと待ち構えながら聞いていると、ごく最近に俺の記憶に刻まれた状況が、アレックスさんの口から出てきた。
「その魔物の圧倒的な数の前に、本来街の治安維持が目的の衛兵隊では歯が立たないばかりか、街を拠点とする冒険者を総動員しても対処しきれず、やむなく王都の一個騎士団が派遣され、街と騎士団双方に多大な犠牲を出しつつも、なんとか鎮圧することができた」
「ちょ、ちょっと待って!それはおかしいわ!」
思わず、と言った感じで、リーナがアレックスさんの話を遮った。
無理もない、リーナが止めなかったら、きっと俺が止めていた。
「ジュートノルに出現したソルジャーアントの群れは、冒険者達の手で食い止めたはずよ!その後の掃討戦には私も参加したから間違いない。それに、騎士団がジュートノルに派遣されたなんて事実があれば、私もテイルも知らないはずがないわ!」
ソルジャーアントの群れに街の内側から襲撃されたの時は、まさにジュートノル存亡の危機だったけど、その討伐のために騎士団が派遣されてくるというのも、結構な大事件だ。
俺やリーナだけじゃなく、街中の噂になっていないとおかしい。
だけど、アレックスさんはリーナの言い分をきっぱりと否定して見せた。
「私はジュートノル
ただし、あえてミスリードを誘うような話し方をして、リーナの言い分を思い通りに引き出したかのような形だったけど。
「私が今しているのは、王都近郊のとある中規模の街の話だ。そして、ジュートノルと同じように、ほぼ同時期にソルジャーアントの群れに内部から襲われた、大小十一の街や村の話をしている」
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