第17話 悪夢の先の地獄 上
結論から言うと、動く鎧のほぼ全てを倒すことに成功した。
その要因は大きく分けて二つある。
一つは、この冒険者学校の同期で構成されたレイドパーティの仲間たちの頑張りだ。
基本、冒険者は命を懸けた戦いなんてやらない。
普通は、念入りに下調べをした上で確実な依頼達成の方法を採り、実力や状況的に無理そうなら潔く諦める。
今回、彼らの安全の担保となったのは、自分達よりはるかに実力のあるパーティ、レオン
だから、青の獅子のツートップであるレオンとリーナが、動く騎士鎧の対処で手一杯になってその担保が消えた時、彼らはパニックに陥り、普段の実力の半分以下も発揮できなくなった。
そこへ、俺というまさかの救世主(笑)が現れた時、三年目になろうとする初級冒険者達は心の均衡を取り戻した。
要は、明確な目的さえあれば気力と体力の限界まで頑張れるのが冒険者という存在らしく、元同期達は良くも悪くも冒険者の心構えができつつあるということだ。
そんな、元同期達が必死で動く鎧と丁々発止とやり合っている時に持ち上がったのが、もう一つの要因、というより問題だ。
ずばり、俺の残存魔力である。
先史や魔導士といった基本職より、比較的オールマイティなステータスバランスとスキル構成をしているノービスだが、唯一にして最大の欠点は、どの数値も低水準な点にある。
こと魔法に限って言えば、初級と言えど使える回数が少ないのだ。具体的に残り回数を言えば、残っている動く鎧をギリギリ倒せるか倒せないかくらい。
しかも、どの鎧にどの魔法を使えばいいのか、判別方法が分からない。
確率的に、動く鎧を全て仕留める前に俺の魔力が枯渇するのが目に見えていたのだ。
しかし、そんな俺に手を差し伸べる女神――もとい魔導士がいた。
「よ、要は、この魔石に四元魔法を込めればいいのね」
「よせルミル!その顔色、どう見ても魔力枯渇の一歩手前だ!全ての鎧を倒す前にお前が倒れかねないぞ!」
「大丈夫よロナード。元々はあたしがやらかしたせいだし、ちょっと魔石に初級魔法を込めるくらいなら、二十回くらいは行けるから。万が一足りなかったら、テイルがやってくれるだろうしね」
ロナードの忠告を無視する形でそう言ったルミルは、事前に申告した回数をはるかに上回る、三十回分もの魔力を担当してくれた。
その魔石を投げ続けて外れを引き続けた身としては申し訳ないの一言だけど、俺の魔力が残り半分になったところで、動く鎧を何とか倒し切ることができた。
その様子をロナードに抱えられながら見守ったルミルは、動く鎧との戦いでボロボロになった戦闘組に謝罪と礼を言った後、眠るように気を失った。
「マジかよ。あの荷物持ちが……?」
「テイル……」
俺達と動く鎧の集団の戦いの一部始終を、騎士鎧との激闘の中でも視界の端に捉えていたらしいレオンとリーナの呟きが、静寂を取り戻した大部屋の中に響き渡る。
「ちっ、まあいい。後は、そこの騎士鎧さえなんとかすりゃあどうとでもなる」
自分が言ったセリフが思いのほか目立ってしまったことにいら立ちを見せながらも、レオンは騎士鎧の方に向き直り、リーナもそれに続いた。
だけど、当の騎士鎧の方の様子が、これまでと違っていた。
(なんだ?構えを取ってない?ていうか……俺の方を向いてる?)
確証があるわけじゃない。そもそも、首から上がないせいでどこを見ているのかすらわからない。
それでも、例えようのないプレッシャーが俺を襲っているのも事実だった。
そして、その直感はすぐに証明された。
「おらあああっ!!」
長時間の戦闘でも一向に衰えを見せないレオンの斬撃が騎士鎧に命中、全てのパーツを四散させながら飛んでいく騎士鎧――異変は復活の段階で起きた。
「がっ!?」 「ぐあっ!!」 「な、なんで!?」
四散し空中を飛んでいた騎士鎧のパーツは元に戻るのではなく、一斉にこっちに飛来して次々と仲間達を攻撃し始めたのだ。
――いや、この言葉も正確じゃなかった。
なぜなら、仲間たちに体当たりを敢行した騎士鎧のパーツはその勢いのままに、俺目がけて飛んできたからだ。
一つなら、避けることもできただろう。
二つまでなら、ガードもできたかもしれない。
三つでも、多少の怪我で済んだかも。
だけど、少なくとも十個以上の金属の塊に一斉に襲われて命が助かると思えるほど、俺は楽観的じゃない。
「逃げてテイル!」
聞いたこともないようなリーナの悲痛な声が届くけど、それだけだった。
死を覚悟した俺は、剣と盾を含めた全ての騎士鎧のパーツがこの体にぶつかる瞬間を想像して目を瞑り――
「……テイル?」
「……おいおい、なんだそりゃ?」
いつまで立っても痛みがやってこない状況に我慢ができなくなって目を開けて、自分の体を確認すると――
「鎧を……着てる?」
「な、なんだよ、驚かせやがって。おいテイル、無事か?それともどこかおかしなところでも――え?」
俺が五体満足に立っているのを見たミルズが、無警戒に近づきながら話しかけてきた。
――が、その言葉を俺が最後まで聞くことはなかったし、ミルズ自身も口にすることはできなかった。
ザシュ プシャアアアアアア
「ギ、ギャアアアアアアアアア!?」
「っ!?全員下がれ!!いや、そいつから離れろ!!」
今までは常に余裕な部分を残していたレオンが、張り詰めた表情で叫びながら剣を構え直す。
その隣りのリーナは、剣を取り落としながら目を見開き口元を両手で覆う。
さっきまで一緒に戦ってきた仲間達が、てんでバラバラになって逃げ惑う。
――全ての視線が俺を見たまま。
残ったのは、左太ももを深々と斬られて倒れているミルズと、それを何とか引きずりながら距離を取ろうとするロナードとルミル。
最後の一人は、煌々と輝く鎧と盾を身に着け、ミルズの血に濡れた剣を手にした、騎士鎧姿の俺だった。
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