第16話 動く鎧の攻略と四元魔法
その事実にいち早く気付いたのが俺だったってことは、二十四人からなるレイドパーティの中で最も安全な位置にいることで、心の余裕があったせいかもしれない。
(1,2,3……30?数が合わない。そういえば、ほとんどの鎧はすぐに復活したのに焼け焦げたままのやつだけが動き出す気配がない?)
それも、きっちり四分の一だけ。
それ以上のことを考えるには、この追い詰められた状況はお世辞にも適していなかった。
「ルミル逃げろ!」
少しでも動く鎧達の圧力を減じようと、その前に立ちはだかったレオンとリーナだが、タイミングが悪すぎた。
復活した数体の動く鎧が、強力な炎魔法を放ったルミルを脅威と認めたらしく、二人の前衛の脇をすり抜けて彼女に迫ってきたのだ。
「わわっ!?あだっ!」
慌てて後ろに下がろうとしたルミルだが、運悪く瓦礫につまづいて転んでしまった。
もちろん、無機質な動く鎧は、起き上がろうとするルミルを待ってはくれない。
「誰でもいいからルミルを守って!!」
前方から、騎士鎧と戦うリーナの悲痛な叫びが聞こえてくる。
「早く、早く隊列を整えるんだ!!」
戦闘組を指揮しているロナードが叱咤するが、不慣れな動きになかなか隊列が揃わない。
そうこうするうちに、決して早くはないが無慈悲なまでにスピードを緩めない動く鎧の凶刃が、まだ立つことができないルミルに迫る。
――もう誰も間に合わない。
そう確信した以上、手を出さないわけにはいかなかった。
「……くそっ!!」
遮二無二ショルダーバッグの中の魔石を一つ、無造作に掴む。
相手は金属の鎧だ、ただ投げたんじゃ、ちょっと怯ませる程度で終わってしまう。
だから、僅かでも威力を上げるために、そして一瞬でも早く届くように、風の初級魔法を魔石に込める。
『サイクロンショット』
初めて使った風魔法と投石の複合技は、緑の光を放ちながら減速の原因となる空気の壁を斬り裂き、リリース時とほぼ変わらない速度と威力を持ったまま、ルミルに向けて剣を突き出そうとした動く鎧に命中して転倒させた。
「……あっ!」
「早く立て!!」
とりあえずの危機から脱した光景を見た後、俺の声に反応したルミルが立ち上がるけど、まだ彼女を狙う動く鎧は残っている。
今度はいくらか落ち着いたテンションで、計三体分のウインドショットをお見舞いする。
ガアン!! ガアン!! ガアン!!
魔石の力も借りた風魔法の乗った投石はそれなりの威力があったようで、命中したすべての動く鎧を転倒させることに成功した。
「……はっ、い、今だ!槍隊、前に押し出せ!」
うおおおおお!!
俺の投石を好機だと思ったんだろう、戦闘組を指揮していたロナードが槍隊を前進させて、動く鎧の集団を後退させる。
これでなんとか一息つけたと思ったその時、再び違和感に襲われた。
いや、今度は、気づいたのは俺だけじゃなかった。
「おい、あの鎧、復活しないぞ?」 「あれを倒したのって……」 「まさか……!」
役目を終えたと元の位置に戻った瞬間、強烈なプレッシャーを感じて振り返ってみると、ポーター組全員の期待と不安の入り混じった視線が、俺に集中していた。
「おい、テイル!お前、何をしたんだ!?」
「な、何って、普通に魔石を投げただけだけど……」
代表して俺に詰め寄ってくるミルズを押しとどめるように手を掲げながら、それでも何とか答える。
「そんなわけないだろう!見ろ!ただ魔石を投げるくらいじゃ、牽制にもなってないんだぞ!」
そう言ったミルズが指差した先には、俺の真似をしてか、安全な距離から魔石を投げまくる数人のポーター組の姿。
その威力は、ここから見ても俺の投石と比べると数段落ちているのが丸わかりで、お世辞にも効果的な攻撃とは言えない。
だけど、俺の『投石』のスキルは、計四体を倒しただけじゃなく――
「だけど、お前が倒した内の一体は起き上がってくる気配がない!俺達全員がペテンにかけられてるんじゃなきゃ、ほんとに倒してるんだよ!教えてくれテイル!お前、どうやって倒したんだ!?」
切羽詰まって俺の肩を掴んで揺さぶってくるミルズの必死さも手伝って、俺の思考はすごい勢いで回転していた。
(投石のスキル?いや違う。あれはあくまで精度、飛距離、威力を高めるものであって、特別な力は宿らない。なら、風魔法?だけど、倒せたのは四体のうち一体。他は普通に復活して動いている――一体だけ?もしかしてルミルの魔法も――だとしたら……!!)
「おいテイル!!」
「悪いミルズ。話はあとだ」
そうミルズに断りつつ肩にかかっている両手を外し、再びポーター組よりも前に出る。
「おい!勝手に前に出てくるなと――テイルか!?」
「悪い、ロナード。直ぐに済ませるから」
そうロナードに一言断ってから、ショルダーバッグから魔石を取り出し、魔力を込める。
ただし、今度は――
『ストリーム』
ここは岩と苔のダンジョン。
つまり、一見水とは縁の無いように見える石の床や壁も、その表面や隙間には多量の水分を含んでいる。
そして周囲の水分を操る水の初級魔法なら、それらの水分をこの手に集めることも簡単だ。
「こ、これは……」
横のロナードの驚く声が聞こえる中、俺は集めた水分に魔力を込めつつ、魔石に纏わせる。
そして青の光を核から放つ魔石を、『投石』のスキルで十分に狙いを定めて投擲した。
『ストリームショット』
この距離で、しかも相手は動きのノロい、的のような鎧だ。
命中は当然のこと、あとは何体目で俺の仮説が実証されるかだが――
ガアン!! ガラガラガラガラガラガシャン!!
どうやら、どんなに最悪な状況でも幸運は訪れるらしい。
サイクロンショットよりも威力を弱めたストリームショットを食らった、動く鎧。
ちょっと衝撃でよろめく程度だったはずが、一瞬ピタッと硬直したかと思うと、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「こ、これは一体……!?」
「四元の属性だ。この、斬っても突いてもすぐに復活する動く鎧は、どういうわけか特定の属性攻撃にめっぽう弱いんだ」
手練れの前衛であるレオンとリーナが、どれだけ攻撃しても通じないはずだ。
そして、ルミルの特大の炎魔法が効かなかったわけでもなかったのだ。
ただ一つ失敗だと言えるのは、ルミルの魔法の威力が凄すぎたこと、そしてすぐさま復活した動く鎧のインパクトが強すぎて、戦闘不能になっている鎧へ目が行かなかった一点に尽きる。
「それなら、魔導士に属性魔法を撃ってもらえば――!!」
思わぬ攻略法に興奮しているロナードだが、一方で冴えない顔つきになっているのが、当のルミルだ。
「あ、ごめんロナード。あたし、さっきの一発で、魔力空っぽになっちゃってるんだ。しばらく魔法は撃てないよ」
「な、なんだと!?」
思わぬ事態に頭を抱えるロナードだが、魔法を撃ち終わった直後のルミルのぎこちない動きは、魔力が枯渇した症状としては最も分かりやすいものだった。
むしろ、なんで同じパーティ仲間が分からないんだ?という方が気になる。
「ほ、他に、魔導士は?」
さすがに項垂れている場合じゃないと顔を上げて魔導士を募るロナードだが、目を合わせようとする奴は誰一人としていない。
「仕方ないよロナード。魔導士なんて、威力のある魔法を撃てるようになるまでは、パーティじゃ足手まといにしかならないの。冒険者学校じゃ、下から二番目のプリーストとは段違いの、一番の不人気ジョブだもん。あたしみたいに、よっぽどの才能が無いと、なろうとも思わないよ」
「な、なら……」
そう言ったロナードの視線が、そして前の方で動く鎧を押しとどめている戦闘組以外の全ての視線が、俺へと集中する。
そう、現状まともな戦力になりそうなのは、もっともまともな戦力じゃなかったノービスの俺という事実が、今ここにあった。
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