第12話 ミルズ視点 テイルという男
「お、おい。何だアイツは……」 「手際良すぎだろ」
「討伐速度だけで言ったらレオンより――」 「しっ!!」
同じポーター組がまだざわついてる中、治癒術士がこっちに来るのを待っている俺は、かつて冒険者学校で隣の席だったテイルのことを、改めて思い出していた。
テイルと初めて会ったのは、半年にわたる冒険者講習の初日のことだ。
テイルの第一印象を一言で言うと、なんかみすぼらしい奴だな、って感じだった。
仮にも、これから半年同じ机で勉強する奴への第一印象じゃないと俺も思うけど、テイルの恰好は貧乏人そのものだった。
つぎはぎだらけの上下に薄汚れた靴だったが、後から思い返してみると、客商売の雑用と言うだけあって、物乞い特有の臭さはなかった。
当然、同期の中には外見だけでテイルのことを蔑みだした奴も何人かいたが、俺はそこまでの感情は沸かなかった。
こうして冒険者学校にいるということは、金貨一枚という大金を冒険者ギルドに払った証だし、毎日真面目に講習に取り組むテイルを隣から見て、そんなに悪い奴じゃなさそうだと思ったからだ。
そんなわけで、ちょっと真面目で変な奴、というのが俺のテイルへの第一印象だったんだが、かといってそれが好転することもなかった。
テイルが、ものすごく付き合いの悪い奴だったからだ。
いつも誰よりも早く来るくせに誰にも話しかけず、講習が終わるとすぐに教室を出て行って、遊びに誘う暇もなかったくらいだ。
冒険者学校に入る奴は、ほぼ全員が成人前の年だ。
まあ別に厳しい年齢制限があるわけじゃないらしいんだが、どうやらジジイババアになっていくにつれて、基本職にクラスチェンジした後のステータスの伸びしろががだんだんと小さくなっていくらしい。
もちろん、成人してから冒険者になる奴もいるらしいんだが、金貨一枚という大枚をはたいてまで冒険者学校に通う旨味がぐっと減ると、教官が講習の合間に言っていた。
そんなわけで、冒険者学校に集まるのは、ほとんどが成人前の若い奴ら。つまり、仕事とか将来とかより遊びが先に来るような、お気楽なノリの集まりってことだ。
もちろん俺も、講習終わりには毎日のように仲間とつるんで遊んだ。
親には、講習が伸びたとか自主練とかいくらでも言い訳が効いたから、当然の成り行きだよな。
だが、テイルは違った。
「おい、テイル。今から女子たちと食べ物屋を回ろうと思うんだけど、来ねえか?」
「いや、この後すぐに用事があるんだ」
「そうか。じゃあ明日とかならどうだ?何なら奢るぜ」
「いや、明日は明日で別の用事があるんだ。誘ってもらったのに悪いな」
何度か誘っては見たが、全部がこれだ。
同じ冒険者志望でも、いくつかのグループに分かれる。
俺達のような、とりあえず冒険者として稼げるようになれりゃあそれでいいって奴らが大半だが、中にはレオンのグループのように、果ては勇者か英雄かでも目指してんじゃねえかっていうエリート組もいる。
だが、どうやらテイルの奴はそのどれとも違うらしい。
授業態度は真面目そのもの。
だが、昼休憩の時間はずっと寝ているし、講習後は誰よりも真っ先に帰って、剣や魔法の自主練をしているところは一度も見たことがない。
テイルの馬鹿は覚えていないらしいが、一度だけあのレオンからの自主練の誘いをすっぱりと断ったことすらある。
「テイル。今回の初級魔法のテストの成績が良かったらしいな。特別に、俺達のグループの自主練に入れてやってもいいんだぞ」
「悪いな。今日は帰る時にお使いを頼まれているんだ。怒らせると後が怖いからな」
「そんなものは放っておけ。なあに、エリート冒険者になれば、お前に使いを頼んだ奴を黙らせることなんて簡単だぞ。幸運にも、お前はこの俺に選ばれたんだ。将来を約束されたようなものだ。なんなら俺の実家の力を使って――」
「本当に悪い。急いでるんだ。じゃ」
多分テイルは知らないだろうが、あの後のレオンの激怒っぷりは、俺達同期の間では今でも語り草になっている。
レオンを怒らせるな、怒らせたテイルとは関わるな、ってな。
実は、冒険者学校を卒業した後、一度だけテイルの姿を見たことがある。
いくらそれなりに広いとは言っても、同じ街に住んでるんだ。当然だよな。
だけど、俺はテイルに声をかけなかった。
どんな形であれ、テイルと接点を持ったことがレオンに知られたら、どんなとばっちりが来るか分からないからな。
あの時はテイルの方が気付いた様子はなかったけど、もし仮にテイルが俺の存在に気づいていたとしても、そのことで悩んだり俺を薄情な奴とは思ってないだろうな。
他人に関心がない奴、ってのもちょっと違うか。
たぶん、テイルは他人に関心を寄せる余裕が無いんだ。
だから、この同窓会を兼ねたレイドパーティに、テイルが参加するとは思ってもみなかった。
実は、俺達同期の大半は、別々のパーティに所属している。
理由は単純。たった半年で身に付けた半端以前の知識やスキルを過信して、同期同士でパーティを組んだとしても、一年も経たずに全滅することになるからだ。
実際、そんな最期になるかもしれなかった同期は俺も含めて何人もいたが、教官たちの強い勧めで(命令ともいう)先輩冒険者の元で冒険者デビューすることになった。
だから、この同窓会で二年ぶりの再会になる同期も少なくなく、俺も思わずテンションが上がりっぱなしだった。
そんな中でのテイルの参加は、爆裂魔法の投下というよりは、煮えたぎった窯の中に特大の氷魔法をぶち込んだみたいな空気になった。
「おい誰だよ、テイルを呼んだ奴は」
「知らねえよ。そもそも、冒険者にならなかったって話だろ?連絡を取ろうにもあいつがどこでどうしてるかを知らねえっての」
「ちょっとやめなさいよ。レオンに聞かれたらどうするの」
「どうやらリーナが声をかけたらしいぜ」
「リーナが?あの『氷結の戦乙女』が?」
レオンに気を遣いつつも噂話はやめられないらしく、同期の間で飛び交う嫌味ともつかない言葉の応酬。
そんな空気にちょっと嫌気が差し、何かに背中を押された気分になった俺は、思わずテイルに話しかけていた。
「おい、お前ひょっとしてテイルか。ひっさしぶりだな!覚えてるか、俺は――」
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