第54話 美しいいじめっ子が学校1のドブスをイジメたらどん底まで不幸になったから罠かも知れないけど藁にもすがってみる話

それから、自宅で朝比奈さんの料理を楽しんでいると。


「あぁそうそう。北条 雅子だけどさぁ。例の映画に出ることが決まったよぉ?」


北条。あの女は先週出所した。


その日のうちに朝比奈さんに連れられて我が家へとやって来た。


そして玄関で私に土下座をした。お互い無言だ。何分そうしていたのだろうか。その後、あいつは朝比奈さんに首根っこを掴まれて帰っていった。ちらりと見えた顔は明らかに以前の私より不細工だった。

私をブツブツの岩石顔とするなら、あいつはもっと純粋に化け物だった。


その後で聞いたのは、北条を主演として映画を撮影する予定があるということだった。

その映画に出演すること、そして私に土下座をすること。主にこの2つが顔を治す条件なのだそうだ。私としてはもういい。さすがにあの顔を見てしまったら、一生その顔で生きろ、だなんてとても言えない。


何でも撮影の最中に手術を行い、その様子も全て映画にするそうだ。



内容は、不細工のいじめられっ子が学校1のイケメンに告白されるところからスタートする。そして紆余曲折を経て両想いになりハッピーエンド。使い古しの陳腐な設定にも思えるけど、どこかで聞いたような内容なんだよね。


イケメン役には結牙だし、不細工をイジメる女役はあの安珠薇だ。水本グループとライトニングゲンジプロモーションのスキャンダルで消えたと聞いていたが、しぶとく生き残っていたらしい。



「雅子が映画に出るのか!?」


「そうらしいよ。どこからそんな話になったのか分からないけどね。」


「そんなの奥様のご温情に決まってるさぁ。あんなクソ女にすら同情されてるのさぁ。お優しい方だねぇ。」


そうなの? ママってそんなに甘くない気がするけど……


「もちろんあいつが生涯に渡って稼ぐ金の半分は奥様の懐に入るけどねぇ。あいつはもう一生飼い殺しさぁ。」


あ……さすがママ。


「勘弁して欲しいよね。姉さんをイジメたクソ女と、目と頭の腐ったバカ女をわざわざ映画に出すなんてさ。ママの一声がなかったら絶対断ってるよ?」


「ママには深い考えがあるんだと思うよ。私にも分からないけどね。」


「静香が受けた精神的苦痛、それに加えて教科書や靴などの経済的損害。奥様は金額にして払わせるおつもりなのさぁ。かわいい娘をイジメたんだからねぇ。一生タダ働きでもいいところを生涯収入の半分で勘弁してやるってのさぁ。奥様はお優しい方だねぇ。」


まさかママ……そこまで読み切って北条の顔を壊したの……? ただの復讐で終わらずに実益も出るように……


凄すぎるよ。


でも多分、北条が自殺したならしたで構わないとも思ってたんだろうな。ママは怖いなあ。


「はは……ママさんやりますね。それで、その映画のタイトルは決まってんですか?」




「ああ、決まってるよぉ。変なタイトルさぁ。誰が決めたんだろうねぇ?

『ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみる話』だとさ。」









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