第37話 元ドブスはやりとげる

「お待たせ。はいどうぞ。」


「おう、ありがとな。へぇー、いい香りがするもんだな。」


「埼玉の狭山茶だよ。私も今日初めて飲んだけど美味しかったよ。」


「へぇー、紅茶って言うと外国ってイメージだけど、国産のもあるんだな。いただくぜ。」


ゆっくりと冷ましながら口に運ぶ城君。私のいれた紅茶を飲んでもらえるなんて。なんだかすごくドキドキする。


「うまい……なんだこれ……こんなうまいの初めて飲んだ……ファミレスのドリンクバーとは全然違うじゃん! 何て言っていいか分かんねーけどめっちゃうまいよ! さすが静香!」


「ありがとう。舌に合ったようでよかったよ。」


私の分はミルクティーにして飲もう。あ、美味しい。アッサムにも負けてないよね。狭山茶ってすごいんだな。



「紅茶2! カップはこれを使って!」


マイセン、白に映える鮮やかな藍色が綺麗だな。


「それは構わないけど、なんでまた?」


「水本先輩がいらしてるからよ! 北条さんの分と合わせて早く!」


「そう。誰であれ一生懸命いれるよ。」


北条が飲むのならママから貰ったおまけの茶葉を使ってみようかな。北条用だって聞いてるし。ママの考えって分からないなぁ。


城君は素早くティーポットとティーカップにお湯を入れてくれる。まだしっかり治ってない足で水汲みまでしてくれて、ありがたいな。嬉しいよ。




そして5分後。


「紅茶2あがり。」


「遅い! さっさとしてよ!」


そう言って阿波さんは持って行った。5分もの間、手伝うこともせず私の手元をじっと見ていたが、雑巾汁でも入れると疑っているのだろうか。こんなにいい香りの紅茶にそんなことする筈ないのに。


「紅茶3!」


それからも注文は続いた。結局結牙は戻ってこず、城君がずっと手伝ってくれた。北条や水本先輩が文句を言ってこないところを見ると、やはりあの紅茶は美味しかったのだろう。私は飲んでないけど香りは狭山茶と変わりなかったよね。どうしてママはあんなことを……




そして、終了。


ああ、私はやったんだ。最後まで、全力で。他のみんなは隣の教室で何かが達成したと盛り上がっている。私はここで城君と2人きり。とても気分がいい。


「静香、最後まで1人でよくやった。がんばったな。」


「弟や城君が手伝ってくれたからだよ。ありがとう。」


「それでもだよ。どれだけの紅茶をいれたことか、手の平や指先がボロボロになってるじゃないか。火傷まで……」


ヤカンが取っ手まで熱くなるタイプだったからだ。この大きさには納得しているが、ここまで細かく嫌がらせをしてくるとは、本当に手が込んでいる。


「城君がいてくれたから平気だよ。」


「静香……」


あ、城君が近寄ってきた。あの顔は、キスしてくれるのかな……嬉しいな。


「私にも一杯貰えるかぁい?」


バッと振り向く城君。いいところだったのに。朝比奈さんだ。わざわざ来てくれたのかな。


「その節はお世話になりました。もう一杯ぐらいならご用意できます。」


「いや、やっぱりいいや」


そう言いつつも中に入ってきて、コンロやガスボンベをしげしげと見ている。


「ふぅん、危なかったねぇ。呑気にイチャついてたらアウトだったかもよぉ?」


そう言いながら朝比奈さんはボンベの元栓を閉めた。


「錆びたボンベに老朽化したガスホース、おまけに壊れかけのコンロかい。よっぽど不幸な事故が起こって欲しかったみたいだねぇ」


「そ、そんな……」


そこまでするの……? それはもうイジメで済むレベルじゃない……


「九狼くぅん? このヤカンの湯を捨てるついでに洗い物してきなよ? このお湯、もう使わないよねぇ?」


「あ、はい。そうですね。じゃあ静香、後で踊りに行こうな!」


「う、うん!」


そうだった。仮装ダンスがあるんだ。もうちょっとがんばろう。


「じゃあこいつらは貰っていくよぉ? どうせゴミなんだしねぇ」


「えっ、いや、どうなんですかね?」


「いいからいいから。じゃあねぇ?」


そう言うと朝比奈さんはあれだけの物を軽々と抱え上げ、持って行ってしまった。何しに来たんだろう。


それにしてもお腹すいたし喉が渇いたな。少し座ろう。あぁ疲れた……

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