第35話 元ドブスはてんてこ舞い

文化祭が始まった。校舎内にも続々と来場者が押し寄せてきた。


「紅茶3! フレンチトースト2! スコーン1!」


「はいよー!」


料理担当の男の子が元気に返事をする。私も負けていられないな。


「紅茶4! ドーナツ2! クッキーセット2!」


早くも注文が立て込んできた。


「フレンチトースト2あがり!」


「持って行くよ!」


「紅茶3あがり。」


無言で持っていく女の子。せっかくかわいいメイド服を着ているのに愛想がないと台無しになってしまうのではないかな。




それからも立て続けに注文が入り、一杯一杯丁寧にいれた。少し時間がかかってしまっているけど、どうにかパンクすることなく捌くことができた。


「御前さん、この紅茶はどこの?」


「埼玉の狭山だよ。美味しいよね。」


「はあ!? 埼玉!? ちょっと勘弁してよ! そんなダサい所の茶葉だなんて言えるわけないじゃん!」


「任されたからには全力でいれてるよ。マズくて文句言われるならともかく、産地に文句言われても知らないよ。それともマズいってクレームでも来た?」


「ち、違うけど……」


「じゃあ問題ないね。忙しいんだから早く持って行ってね。」


昨日から私にあれこれ言ってくるこの女の子。彼女は北条の取り巻きの1人。名前は確か……阿波あわさんだったかな。まさか産地で文句を言われるなんて。こんなに美味しいのに。もしかして彼女は西洋かぶれなのかな?


それはそうと1人でやるにはそろそろキツくなってきた。水汲みにも行かないといけないし、回収されてきたカップも洗わないと。洗い場が遠いのも困るな。


「紅茶5!」


「分かった。」


これをいれたら水を汲んで……洗いに行こう……


「紅茶4!」

「紅茶3!」

「紅茶3!」


うそ……なんでそんなに……

それならせめて分業を……


「そこのあなた、これに水を汲んできてくれないかな。蛇口にこれを装着してから。あなたはここのカップを洗ってきてもらえないかな?」


返事はない。動きもない。普段私を無視しているクラスメイト。無視しているのは私も同じ。だから名前も知らない。こんな時に協力してもらえないのも当然か。仕方ない、1人でもできる限りやろう。




水汲みと洗い物が終わった。今からお湯を沸かそう。


「ちょっと! まだなの!? 早くしてよ!」

「こっちもよ! いつまで待たせるのよ!」

「サボらないでよね!」


「あと8分だよ。文句を言ってるひまがあるなら手伝って欲しかったよ。次から回収してきたカップとソーサーは洗って乾かしてから持ってきてね。」


「なんで私たちがそんなこと……」

「そこまで含めてあんたの仕事じゃん!」

「自分の仕事を押し付けないでよ!」


「そう。じゃあ黙って待ってて。マズいって苦情があったら言って。いれ方を変えるから。」


文句を言うぐらいなら手伝った方が早いのに。私へのイジメに来場者を巻き込むなんて。何を考えてるのかな。


「あんたねぇ!」

「いいかげんに!」

「さっさと……」


「やあ姉さん、調子はどう?」


いいタイミングで結牙が来てくれた。


「よくないよ。結牙が手伝ってくれると助かるかな。」


「もちろんいいよ! 何でも言ってよ!」


結牙の登場に彼女達は目を白黒させている。無理もないのかな。


「あの顔どこかで……きれい……」

「ゆいが……って言ってたよ?」

「あっ! 奇跡の美少年子役の浜ゆいが君!」


「えっ!? あの浜ゆいが君がブス香の弟!?」

「そんなの嘘よ……物理的にあり得ない……」

「最近全然テレビで見ないけど、あんなに大きくなってたんだ……」


奇跡の美少年、結牙は小学生の頃そう呼ばれていた。芸名は『浜 ゆいが』

パパ譲りの運動神経、ママ譲りの面差しと演技力。テレビや映画で活躍する結牙に嫉妬したこともあったな。同じ姉弟きょうだいなのにどうして私はこんなにも醜いのかって。それでもやっぱり、私のかわいい弟。


「ねえお姉さんたち? ここはいいから自分の仕事をしようよ。テキパキ動くメイドさんって素敵だよね。」


「う、うん! がんばる!」

「まかせて!」

「あっぐ……と、とおとい……」


うん、これならどうにかなりそうかな。

ありがとう結牙。

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