第26話 ドブスの両親
とりあえず先に城君の病室に行ってみた。でも、いなかった。たぶんリハビリ中なんだろうな。さぞかし痛いだろうに。
スマホを見てみるとママからラインが来ていた。
『整形外科の処置室に来なさい』
整形外科は一階だ。降りないといけない。
着いてみると、そこにはママだけでなく西条先生までいらっしゃった。
「こんにちは先生。いつもありがとうございます。」
「やあ静香ちゃん。彼氏は順調だよ。ではこちらへ。」
ちゃんと城君のことも見ててくれてるんだ。嬉しいな。
別室に移る。パソコンが一台置いてあるだけの狭い部屋だった。
「静香、あなたその顔を治したいと思ってる?」
「えっ……」
ママは一体何を……
「治すって……このブツブツを……?」
だってこのブツブツは生まれつきで……整形手術しても意味がないって……
「治す目処が立ったわ。静香がその気になれば治せるわよ?」
「少し補足しておこう。静香ちゃん、確かに君の顔は病気ではない。言うなれば遺伝のエラーだ。君の父、大河さんの遺伝子のね。」
パパの? それは親子だから似るのも当たり前だけど……でも、パパのあれは病気が原因だって……遺伝するものなの?
「そうなの。パパのあの顔は病気なんかじゃないの。私を庇ってそうなったのよ。」
ママの話は壮絶だ。何度見ても、聞いても……
ママの女優としての最後の仕事。とある映画の撮影で中米を訪れていた時。かなり治安の悪い場所だったためママには優秀なボディーガードが付けられた。それがパパだった。
パパのガードのお陰でママは撮影だけに集中することができただけでなく、その仕事ぶりに徐々に惹かれていった。
そんな中、突発的に反政府ゲリラと政府軍の武力衝突が始まり、撮影場所であった荒野すらも戦場になってしまう。そこには最後のシーンに必要なセットがいくつもあり、もし壊されたりしたら撮影の続行が不可能となる。
岩に隠れ、車両に隠れながらも対峙する両軍。急いで現場から撤退する撮影クルー。
しかしママは……
全ての着衣を脱ぎ捨て、戦場の真ん中へと歩いて行く。灼熱の荒野を裸足で、涼しい顔をして。
ついに両軍が睨み合う中間地点まで到達したママ。ゲリラ側から放たれた一発の銃弾が脇腹を撃ち抜いた。それでも能面のような表情を変えることなく踊り始めた。白拍子の舞を。演目はママにも分からないそう。あの時はまるで自分が自分じゃなかったように感じたとか。
踊り続けるママ。それを微動だにせず見つめるパパ、そして両軍。物の怪に魅入っているかのようにカメラを回すスタッフ。
ママは何か言葉を喋っていたそうだが聴き取れた者はいない。映像には口が動く様しか残っていなかったから。
灼熱の太陽の下。どれだけの時間踊り続けたのか。その場にいた者では8時間だと言う者すらいる。
実際には29分38秒。
ママが踊り始めてから倒れるまでの時間だ。現場は異様な雰囲気に包まれ、両軍から物音一つ聴こえなかった。動いているのはパパだけ。倒れたママを抱き上げ、戦場の中心から連れ帰ったのだ。やがてそんな2人の姿も見えなくなると、両軍はどちらからともなく軍を引いた。
翌日、両足に大火傷を負ったママは何事もなかったかのように最後の撮影を終えた。そしてその映画はあらゆる賞を総なめにして、ママの異名『女優(the actress)』が世界に広まったのだった。ママが荒野で舞うシーンは今見ても震えるほどに美しい。足は爛れ、脇腹から血を流し、それでも優雅に舞うママ。
内戦を止めたとしてノーベル平和賞を受賞したのも必然かも知れない。
ここまでは誰でも知ってる女優『磯野よしの』の話。
ここからが私も知らなかった話だ。
とある国のパーティーにパパと出席していたママ。その時はすでに夫婦となっており、女優も引退していたそうだ。
とある男がママに近付いてきた。パパだけがその怪しさに気付いた理由はグラスの持ち方。一見するとただの赤ワインだけど、まるで爆発物でも扱うかのように慎重に持っていたからとか。
パパに気付かれたことを察した男は数メートルの距離を物ともせず、グラスごと液体を投げつけた。
素早くママを後ろに庇い、ポケットチーフで液体を防ぐ、と同時に男を取り押さえたパパ。でも、数滴ほど顔にかかったそうだ。
後から分かったことだが、男の目的はママの顔を破壊すること。内戦を止めたママのことを女神だと崇拝しているそうだ。だからそんな女神に顔があってはいけない。女神の顔は誰にも知られてはならないと考え自ら薬品を調合し、作り上げたのが自称『神の薬』
その効果は、たった数滴でパパの顔をブツブツだらけの醜い皮膚へと変えてしまった。
男は行動力のある愚者だったようで、無駄に様々な裏組織と取引をし、様々な生物兵器も集めたそうだ。その結果が……
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