第27話 ドブスは決意する

『神の薬』とやらはパパの遺伝子にまで影響を与えたらしく、皮膚移植でブツブツを治しても、様々な治療法を試しても、全く同じ位置に同じブツブツが現れたそうだ。

そして私にもそれが遺伝した……


こんなことがあり得るなんて……


ちなみにその男はテロの3日後に死んだらしい。杜撰な管理で調合をしていたらしくもう手の施しようがないほど死の目前だったそうだ。男の死体も住居も丸焼きにするしか対処法がなく、他に何人も被害が出たと。


「だから静香が整形手術をしても無駄なのは分かっていたの。でも、私もパパも諦めなかったわ。西条先生を始め、その道の権威と呼ばれる人に研究をしてもらったの。それがこの度ついに、完成したのよ。」


「だから治るってこと?」


「そう。治るのよ。後は静香の意志だけよ。もちろん静香の後はパパも治るわよ。あの時の他の被害者もね。」


どうしよう……私、治っていいのかな……城君に嫌われたりしないよね……

城君だってブツブツなんかない方がいい……よね……


「ママ、治したいよ……」


「ええ、きっと治るわ。ね、先生?」


「ああ、手術は苦しいものになるだろうが君ならきっと耐えられる。まずは明日だ。今日のところは入院の準備を整えておいてもらおうか。」


「はい……よろしくお願いします……」




それからはよく覚えていない。気がつけばママの車で家に着いていた。


そうだ、城君にラインをしておこう。私も入院することになったから後で行くね、と。


変な気分……

夢にすら見てなかった……

私が普通の顔になれるなんて……

パパもママもずっと頑張ってくれてたんだ……きっと私には想像もつかないような大金を使って……


「静香、覚悟しておきなさい。ブスにはブスの、美人には美人の苦労があるわ。結局一番幸せになりやすいのは普通の顔よ。でもあなたは私の娘、どうしたってこんな顔になると思うわ。それでも今まで通り胸を張って生きていくの。分かったわね?」


「うん、本当にありがとう。ママの苦労は想像もつかないけど、負けずに生きていくよ。」


こんな顔……本当にママみたいな美人になるのかな……想像できないよ。

あ、そういえば。


「パパは一緒に入院しないの? せっかく西条先生がいらしてるのに。」


「パパはまだ後よ。たぶん冬頃になるかしら。」


「そうなんだ……私だけ先に治るなんて……」


「いいのよ。パパは俺が先に実験台になるって言ってたけど。症状からすると静香が先の方が効率がいいの。だから気にしないで。」


「うん、分かった。ありがとう。」


よし、じゃあ入院の荷造りをしよう。貰った紙に書いてある通りに揃えて……後は宿題と参考書、問題集かな。重いな……半分は後で結牙に持って来てもらおう。

それからシャワーも浴びておこうかな。入院するとあんまりお風呂に入れないそうだから。




「ママお待たせ。準備できたよ。」


「いよいよ醜いアヒルの子が白鳥になる時が来たわね。楽しみだわ。」


「うん……」


ブツブツがなくなる。それは嬉しい。すごく嬉しい。でもなぜだろう。どこかに不安がある。手術は大変だと聞いた。でもそれは不安ではない。



城君だ……


城君が喜んでくれるかどうかが分からないからだ。


城君はこんなブツブツだらけの私の顔を正解だって言ってくれた……

でもママに似てたら声もかけられないって……


やっぱり……思い切って話してみるしかない。喜んでくれるかな……



病院に到着したのは夕方。案内された部屋は、なんと城君の隣。嬉しいけど……なんだか恥ずかしい。荷物を置いてさっそく城君の部屋へ行ってみる。いるかな……


「城君、いる?」


「おう、ちょうど今ライン見たぜ。入院ってどうしたんだよ?」


「あ、あのね……実は……」


先ほど知ったばかりの事情を添えて説明する。喜んでくれるかな……




「だ、大丈夫なのか? もしかしてかなりの難手術なんじゃ……」


「私はただ横になってるだけだから。それに西条先生がやってくれるし、大丈夫だよ。」


「そ、そっか……うーん、静香が……きれいになるんだよな……」


「きれいになるかなんて分からないよ。分かるのはブツブツがなくなるってことだけ。」


「う、うん。そうだよな……よ、よかったな……俺も嬉しい……」


え? 城君が明らかに喜んでない……


「城君……嫌だった? 私、このままの方がいい? 城君が好きでいてくれるなら……顔なんてどうだっていいんだよ?」


「ち、違う……違うんだ……つい考えてしまったんだよ……静香がきれいになっちまったら、俺から離れていってしまうんじゃないかって……」


「城君……うちのパパの顔は知らないよね。私みたいにブツブツだらけの顔なんだよ。でもママ、あのママがベタ惚れしてるの。もちろん私もパパが大好きだよ。だからって言うのは変だけど、私は城君から用無しとか、不要だとか言われない限りずっとそばにいたいよ。多分、どっか行けって言われたら行くと思うけど、それでもずっと好きなままだと思う。」


城君ってイケメンでモテモテなのに変な心配するんだな。そんなことあるわけないのに。


「静香……そうだよな。静香は芯が通った女だもんな。よし、静香もきれいになることだし、俺も負けてらんねーな! まだまだまともには歩けねーけど、リハビリをガンガンにやってやるぜ!」


「うん! 応援してるからね! あ、これいつもの。よかったら食べて。」


「おっ、ありがとよ! 今日は肉巻きじゃないのか。てことは中身に……うめぇ! 明太子か! こっちは鮭! うめぇ! うめぇよぉ!」


よかった。いつもお肉のおにぎりだからたまには魚にしてみたんだよ。明日からしばらくは作ってあげられないけど。一緒にがんばろうね。

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