第23話 ドブスは登校する

夕食前、パパが全員に事の次第を話してくれた。と言ってもまだ大したことは分かってないそうだ。

まず弁田君以外の4人は佐々木、多田、天野、梶原と言うらしい。こいつらはサッカー部の補欠。今のところ誰かから命令されたなどと供述はしてないらしい。4人とも私に誘惑された被害者だと言い張っているとか。もっとも、私が喉を蹴った多田はまだ喋れず、最初に撮影していた奴、天野は睾丸が1つ潰れていたらしいが。

弁田君は完全黙秘。何も喋らないそうだ。

もちろん全員警察に拘留されている。ご丁寧に証拠はしっかりと撮影されているのだから。聞くに耐えない言葉の数々までしっかりと。


私の方が病院で診断書をもらってないのがやや弱いところではあるが、ほぼ無傷なので仕方ない。背中を打ち付けて、両方の二の腕には弁田君の指の痕がしっかりと残ってはいるけど。


「静香、動画を見たわ。完璧な対応だったわね。あなたを誇りに思うわ。」


「ママ……」


なんだろう。ママにそう言われるとすごく嬉しい。テストで全教科満点をとっても言われたことのない言葉、初めてだ。


「だから言ったんだよ! 男は狼なんだから! ちょっとは警戒してよ!」


「結牙、それは違うよ。あの子達は狼じゃなくて猿だよ。狼は城君かな。」


「もお! 姉さんのバカ! そいつら全員ぶっ飛ばすからね!」


「おいおい結牙よぉ、いつの話をしてんだ? あいつら数年は出てこれねぇぞ?」


法律は詳しくないけど今回のケースは強姦未遂になるのかな。しかし未成年。そんな数年も鑑別所とか少年院とかに行くものなのかな。


「えぇーそんなの待ってられないよ! すぐ出してよぉ! ボッコボコにするから!」


「かっかっか、そんなら静香に頼め。静香が決めることだからよ。」


そう言われてもな。法律通りに裁いてくれたらそれでいいんだけど。


「静香、あいつらを釈放するには示談を成立させる必要があるわ。つまりあちらの保護者から何らかのアクションがないとね? どうしたい?」


示談か。それは嫌かな。


「話し合うことなんか何もないよ。法律通りに裁いて欲しい。」


「よーく分かったぜ。つーわけだ結牙、殴りたけりゃあ数年待ってろ。あいつらは塀の中で決定だ。」


「もぉー。仕方ないなー。今回は諦めるけど姉さん! 絶対気をつけてよ!」


「そうだね。注意するよ。」


確かに結牙の言う通りだ。今までそれ系のいじめが無かったからすっかり油断していた。あいつらは嫌々ではあったけど確かに私の身体を標的にしたのだから。


それより明日からどうしよう。どうせもうすぐ夏休みだし休んでもいいかな。きっとあれこれ言われるだろうし……

いや、でも逃げたみたいで嫌だな。私は何も悪くないんだから。やっぱり行こう。一週間もすれば夏休みだし。




次の日。駅から歩く私に向けられる視線は、侮蔑のようだった。


「信じらんない……」

「あいつあの顔で弁田君たちと……」

「どんだけ男好きなのよ……」

「しかも被害者ぶって……」

「許せないよね……」


何か言っているようだが気になるなら訊いてくれればいいのに。私に隠すことなんかない。教えてあげるのに。どうせ信じないだろうけど。それにしてもどこまで話が広がっているのだろう。昨日の今日で……

あ、私が知らないだけで普通みんなはグループラインでやり取りしてるんだ。それなら情報共有はあっという間かな。真実かどうかはともかく。


「ちょっと! アンタが御前 静香ね! うちの子に何したのよ!」

「無実の罪で警察に捕まってるのよ! アンタのせいよ!」

「すぐに取り下げなさい! さもないと訴えてやるから!」


「どちら様ですか? 昨日の件でしたら顧問弁護士を通すよう通達が行ってるはずですが?」


私に言っても意味がないのに。しかも真実を知っててそんなことを言っているのだろうか。足を止めず通り抜ける、が……手を掴まれた。


「待ちなさい! 無視してんじゃないわよ!」

「この人でなし! 見た目通り性根が腐ってるわ!」

「何が通達よ! そんなの聞いてないわ!」


話にならない。手を振り解き校門をくぐる。


さすがに校内にまでは踏み込んでこなかったが、その場で何やら騒いでいる。

あんなのでもうちの先生に言っても無駄ってことは承知してるんだろうな。どうせ退学だろうし。バスケ部は主力が2人もいなくなったら大変だろうな。


あ、机に落書きが増えてる。問題なしかな。椅子に仕掛けは……接着剤かな。もう乾いてるし、これも問題なし。早く夏休みにならないかな。

ちなみに授業中は消しゴムの欠片とか丸めた紙なんかが飛んできていたようだ。結構集中しているから気付かなかった。あいつらも集中して受ければいいのに。時間がもったいないと思わないのだろうか。

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