第22話 ドブスは抱きつく

「はあ……はあ……もうだめ、限界っすよ……」


「だめよ? 若いんだからもっとできるわよねぇ?」


「そ、そんなこと言われても……」


「ほぉら? もうこんなに。もっと動いてぇ?」


「くっ……」


「そうよぉ。いいわぁ。もっとよ? もっと上に動かしてごらんなさい?」


城君と妖艶な看護師さんの声だ。朝比奈さんだったっけ。リハビリ中かな。気にせず入ろう。


「城君、調子はどう?」


「おお静香……良くねーよ。今日からメニューが倍だとよ……くっそ、終わらねぇ……」


「ほぉらあと10回。男を見せて?」


リハビリって看護師さんの仕事だっけ?


「はあ……はあ……くっ……」


ベッドに腰かけた状態で膝の曲げ伸ばし。常人からすると何でもない動きだけど、今の城君にとってはかなりの難易度なんだろうな。


「ほぉらできたじゃなぁい。あーあ、こんなに汗かいちゃって。彼女、拭いてあげたら?」


「は、はい。やります。」


私だってこのぐらいの役には立たないとね。


「じゃあ任せたわよ? お大事に。」


「あざっす……」


「お世話になりました。」


タオルを濡らして絞る。結牙が風邪をひいた時を思い出すな。


「あー、疲れた……くっそ痛え。地獄だったぜ。それはそうと静香、えれー似合ってるな。今日は着替えてから来たのか?」


似合ってるって言われた。城君は心にもないことは言わない。本当なんだ……嬉しい。


「あ、ありがとう。午前中に買ってもらったの。実は朝、学校でね……」




ざっと説明してみた。城君は「バカな!」「そ、そんな……」「嘘だろ……」「慶三けいぞうが……」と、かなりショックを受けていた。


「静香は無事なんだな?」


「うん。無傷だよ。城君は弁田君にそんなこと頼んでないんだよね?」


「ああ、もちろんだ。どう考えても静香のためにならないよな。慶三はどうしちまったんだ……」


「分からないよ。何か事情があったんだろうね。例えば城君が私にしたような。」


「そうかもな……あの時は悪かったよ。でも後悔してねーぜ。俺はやってよかったと思ってる。」


「うん、私も……よし、きれいになったよ。」


「おう、ありがとな。気持ちよかったぜ。」


城君の背中。広い。吸い込まれそう。


「し、静香!?」


後ろから抱きついてしまった。だって……


「怖かったんだよ……すごく……」


「静香……」


「でも私……初めては……いや何回目だって……城君でないと……だから……」


また泣きそうになってしまう。どんなにいじめられても泣くことなんかなかったのに。最近の私はおかしい。どんどん弱くなっていってるような。


「静香。よくがんばったな。もし俺が同じ状況、もし慶三がゲイでしかも5人いたら……打つ手なしだったろうな。静香は本当にすごいよ。」


「ぷっ、何よそれ。城君ったら。ありがと……」


「それより、さっき言ったことは本当だな? 信じるぞ?」


「え、何が?」


「初めては俺がいいんだろ?」


「う、うん……」


私、なんてはしたないことを……


「へへっ、これで地獄のリハビリも耐えられるな。2学期から学校に行ける見込みだからな。そしたら静香んちにも挨拶に行って。それからだな!」


「自分で言うのも変だけど、城君って趣味悪いね。」


でも、すごく嬉しい。男性に求められるってこんな気持ちなんだ。


「好きになっちまったんだから仕方ないだろ。今思えばさ、雅子みやびこ安珠薇あんじゅらみたいな顔だけ女ばっかり見てたからこうなったのかもな。学校でもそうじゃん? 静香をいじめてる女ども、顔はそれなりだけど全員心が腐ってんだろ?」


「そう言われるとそうかも。城君は優しいね。嬉しくなっちゃうよ。」


「正直者だからな。知ってるか? 一生幸せでいたかったら正直でいることだって言葉。難しいけどいい言葉だよな。」


『一日だけ幸せでいたいならば、床屋にいけ。

一週間だけ幸せでいたいなら、車を買え。

一ヶ月だけ幸せでいたいなら、結婚をしろ。

一年だけ幸せでいたいなら、家を買え。

一生幸せでいたいなら、正直でいることだ。』


たしかイギリスのことわざだったかな。


「いい言葉だよね。確かに難しいけど。」


正直か……北条は何を考えてるんだろう。自分の思うがままに正直に行動しているのだろうか。馬鹿な奴……

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