第19話 ドブスは心配される

「どうした? ぼーっとして。」


「ううん、何でもないよ。城君はNBAに行くんだよね。」


「……いきなりどうした? そりゃあ夢はNBAだけどさ。」


「うん……聞きにくいんだけど怪我をしたときどう思った? 普通に考えたら致命傷だよね?」


「キツいこと聞くなー。絶望したに決まってんだろ。声も出ないほど痛くてさ、でも心の中じゃあはっきりと分かっちまったんだよ。終わった……ってな。」


始めから夢なんか持ってなかった私。

こころざし半ばで夢を絶たれかけた城君。

やっぱり城君の方がよほど辛いよね……


「なのになぜ元気に振る舞えるの? 今だってかなり痛いんだよね?」


「元気なわけねーだろ。いくら痛いって言っても痛み止めは使ってくんねーし、痛くて曲がらねーって言ってんのに無理矢理曲げようとしてくるし。最悪だぜ。この夏休みは合宿だって行く予定だったのによ。」


「でも城君は自暴自棄になってない。治るって信じてるんだよね。すごいよ。」


「あの西条って先生、かなりの凄腕らしいけどな。そんなこと俺らには分からないじゃん? でも不思議とあの先生の言うことには説得力があったんだ。手術は成功した、この通りにリハビリしたら必ず治る、もし治らなかったら君がサボったからだということになる、せいぜい頑張れってな。無茶言うよな。」


「西条先生らしいね。あの人もうちの母も自信の塊だから見ていて眩しい、眩しすぎるよね。」


「ばーか、静香だって俺から見れば眩しいぜ? 顔以外完璧じゃねーか。」


「それは褒めてるつもりなのかな? 心にもないお世辞を言われるよりはいいけど。」


「はっはっは。お前はかわいいやつだぜ。そんな静香がいるから俺は頑張れるんだよ。怪我で自暴自棄になって彼女に当たり散らすとか酒に逃げるなんてカッコ悪いじゃん?」


お酒に逃げる。そんな人もいるんだろうか。


「やっぱり城君はすごいよ。母も城君のことを、やせ我慢ができるなんて芯のある男の子だって言ってたし。私も誇らしいよ。」


「はは、照れるな。よし、戻るか。でもその前に……」


「なにを、んむっ……」


そんな、また、あ、頭がとろけそう……何も考え、られ……ない……




「静香? 起きろよ。」


「あれ? 私、起きてた、よね?」


「目は開いてたぜ。でも心はどっかに飛んでたな。ふふ。」


城君と2回目のキス……

キスだけでこんな気持ちになるなんて。この先を考えたら、すこし怖いかも。

性教育だって当然受けている。どうせ一生必要ないと思っていたけど。もしかして必要になる、のかな……




城君を病室に戻しベッドに寝かせる。そこにタイミングよく夕食が運ばれてきた。それなら私も帰ろう。


「じゃあ、また明日ね。」


「おう。待ってるぜ。」


明日が楽しみだ。翌日に楽しみがあるっていいな。学校には楽しみなんて何もないから。






あっと言う間の土日だった。どちらも夕方病院に行き城君と1時間ほど過ごした。普通土日はリハビリも休みだそうだが城君は例外らしく、休みなく行ったそうだ。

昨日も城君は屋上で私にキスをしてくれた。3回目……こんな私が気持ち悪くないなんて……信じられない。でも、嬉しい。城君が触れた唇、家に帰ってもまだ熱を持っているみたい。

指で触れても熱く感じる。ママが知ったら何て言うかな。それともバレバレかな。





そして月曜日。

私は1人で駅から歩く。蔑みの視線も慣れたものだ。放課後、また城君に会えると思うと楽しくて仕方ない。


何人もの生徒たちが私を見て何か言っているようだが気にもならない。


「おう。」


「あ、弁田君。おはよう。」


「行くぜ。」


「え? もちろん学校には行くよ。」


「一緒に行くからついて来いって言ってんだ。城の奴、お前が心配なんだとよ。」


「え? 私が心配? だから弁田君が一緒に登校するの?」


「おう。いいからさっさと歩け。」


逆効果な気もするけど。城君に心配してもらえるのは嬉しいな。昨日言ってくれればよかったのに。

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