第18話 ドブスは将来に想いを馳せる

「姉さん、帰ろうよ。僕の出番も終わったから。」


「うん。帰ろうか。」


作品名は『復讐令嬢フランソワの逃亡』

秋には公開されるらしい。少し楽しみだな。帰りも安達さんが送ってくれた。マネージャーって忙しいだろうに、ありがたいな。






「監督、結牙のやつ中々いい芝居をするようになりましたね。あれならどうにか今後も生きていけるんじゃないですか?」


「あいつぁ元々あれぐらいは出来る奴だ。今日は姉が来てたから張り切ったんだろう。普段からできりゃあいいのによ。」


「あの子凄いですよね。リハーサルと全く同じスピードで同じルートを走ってましたね。だいぶ予定外のアクシデントがあったのに。スタントマンとしても生きていけるんじゃないですか? あの顔だし。」


「あいつには無理だ。静香は放っておいても注目されるだろうぜ。なんせ……」


「なんせ? 何かあるんですか?」


「いや、なんでもない。それより安珠薇あんじゅらが何かギャーギャー言ってたな。あれは自分がやるべき役だとかよ?」


「結牙が出演すると聞いて飛んで来たみたいですよ。どんだけ男に粉かけりゃあ気が済むんですかね。あれで十代に大人気のアイドルとは世も末ですね。」


「そんで傷でもついたらガタガタ言うんだからよ。世も末だな。」






同じ頃、安珠薇は帰りの車で荒れ狂っていた。


「信じらんない! あんなドブスが姉って! 絶対捨て子じゃん! 血ぃ繋がってないって! いや!? 逆に考えたら……ゆいがの奴が整形なんじゃん? ホントはブツブツ不細工のくせに整形して美少年ぶってんじゃん!?」


「それぐらいにしておけ。着いたぞ。ご希望通り歳下の男、モデルの卵を3人だ。せいぜい楽しめ。明日の昼ごろ迎えに来るからな。」


「やればできんじゃん。そんじゃ明日ねー!」


安珠薇が車から降りたのは、とある高級マンションの地下駐車場だった。






自宅に帰った私はシャワーを浴びて出かける準備をする。今日は何を作ろうかな。


結局いつもの肉巻きおにぎりにした。城君が好きだと言ったものばかりを作り続けるなんておばあちゃんみたいだけど。おいしくて気軽に食べてもらうにはきっとこれがちょうどいい気がするから。味付けは変えてるし。


「おお静香、また出るのか?」


「うん。病院に。」


「今から世話女房かよ。見てらんねーな。まあいいや、乗ってけ。」


「あ、うん。ありがとう。」


パパの車は好きだ。少し乗り降りしにくいけど大きくてゆったり座れるし眺めもいい。でも『浜田』だなんて変な名前。




着いた。パパの運転はゆっくりで安全だから酔うこともない。ママの運転は酷いもんな。


「じゃあ行ってくるね。夕飯には戻るから。」


「おう。彼氏の面ぁ拝む日を楽しみにしてるからな。」


「うん!」


パパは楽しみにしてくれてるんだ。嬉しいな。早く良くなるといいな。




静香を見送った後、父親はどこかへ電話をかけた。


「おう俺だ。状況はどうよ?」



「ふん、なるほどな。」



「分かった。引き続き頼むわ。油断すんじゃねーぞ。」



電話を切り、携帯電話を置く。


「水本 溜知か……」


そして車を走らせどこかへ行ってしまった。






そろそろ城君のリハビリが終わる頃かな。今日もがんばったんだろうな。あれ? いない。よく見るとベッドが空いている。部屋を移ったってことかな。もしかしてメッセージが……来てた!


『712に部屋を移った』


いつもだけどラインの城君ってすごくそっけない。用件しか言わないので普段とのギャップがすごい。


712……712……


あった。個室なんだ。ノックをする。


「城君、来たよ。」


「お、おお、静香。入ってくれよ。」


中にいたのは城君と、妖艶な看護師さんだった。薄い化粧しかしてないのに妖艶。すごいな。名札には朝比奈 巴と書いてある。


「はい手を挙げてぇ」


城君は上半身裸になって体を拭いてもらっていた。お風呂に入れないよね……辛いよね……


「いつも城君がお世話になっております。」


「うふ、私が担当したのは今日からよ。こぉんなかわいい子を担当できるなんてツイてるわぁ」


「そうなんですか。城君をよろしくお願いします。あ、城君これ。」


「お、おお、ありがとな。身動きとれないから食べさせてくれよ。」


た、食べさせる!? まさか伝説の行為はいあーん!? よ、よし……箸は用意してないから手で……


「は、はい、あ、あーん……」


平然と口を開ける城君。ひゃっ、指が、城君の舌に……




「ふぅー、美味かったぁー! やっぱ静香の料理は最高だな。指まで旨かったぜ。」


「う、うん、よかったよ。」


3個目を食べてもらった時、私の指を城君の舌がなぞった。不思議な感覚だったな。城君の舌が、私の体の一部を……


「どうした? 顔が赤いぜ?」


ニヤニヤとしながら聞いてくる。分かってるくせに。


「城君のせいだよ。もう……」


「はい終わり。仲が良くていいねぇ。じゃあまた夜ね。お大事に」


「はい、ありがとうございました。」


「お世話になりました。ありがとうございます。」


「そうそう。あそこに防犯カメラがあるからいけないことをする時はカーテンを閉めるんだよ?」


「ははっ、まだしませんよ。元気になってからですね。」


病室に防犯カメラ? 前の部屋にはなかったはずだけど。


「じゃあ静香、屋上に行こうか。立たせてくれるか?」


「うん。じゃあいくよ。」




屋上で今日の出来事を話してみた。外は暑いけど昼間よりだいぶ涼しいかな。


安珠薇あんじゅらかー。あいつクソ兄貴の母方の従姉妹なんだよ。なもんだから水本グループと事務所の力でやりたい放題みたいだぜ?」


「そうなんだ。芸能界って怖いんだね。」


結牙はそんな世界で生きようとしているんだよね。ママだってそんな世界を生き抜いてきて。すごいよ。


私は、どうだろう。何もないと思って生きてきたけど。パパがいる、ママがいるし結牙もいる。そして何より城君がいる。


私の生き方は……

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