第17話 ドブスは駆け抜ける
突然ブス呼ばわりされてしまった。いつものことだけど。
「
普段なら無視するんだけど、ここは結牙の職場みたいなものだからそうもいかないよね、はぁ。
「知らねーっての! ちょっとぉジャーマネ!? どうなってんのよぉ!」
「失礼、君はどこかの事務所に所属は?」
してるはずがない。
「しておりません。今日はたまたま呼ばれただけです。」
「だったらさっさと帰れば? はーいお疲れー。だいたいエキストラ風情にできる役じゃねーし!」
「それが監督のご指示であれば従います。」
「分っかんないかなぁー? かーえーれって言ってんの。頭大丈夫? 顔は手遅れみたいだけど。」
初対面でこの言われよう。いくら慣れていても平気ではいられない。これが学校だったら多分平気だろうけど。
「私でなく監督におっしゃってください。」
いくらエキストラといえども仕事だ。仕事に来ておいて責任者の指示もなしにどうして帰ることができようか。芸能界ってこんな無法がまかり通るものなのかな。
「ふーん? エキストラなんかにしがみついても将来ないよ? この業界でウチに逆らって生きていけると思ってんの?」
「関係ありません。」
本当に関係ない。この業界って言われてもね。
「あったまきた! ジャーマネ! こいつ摘み出してよ!」
「監督には僕から話しておこう。それでどうだい? 明るいうちに帰った方が安全だよ?」
さすがにマネージャーさんはまだ紳士的なのかな。まだ午前中なんだから明るいのは当たり前なのに。
「そちら様が監督にお話しされるのはご自由ですが私の口から何も言うことはありません。」
「姉さんどうしたの?」
やっと来た。結牙も暇じゃないんだろうけど。
「ゆっ、ゆいが君! 会いたかったよ! 久しぶりだね! この映画、ゆいが君が出るって聞いたから! 私も出てみたくなったの!」
「やあ、
「フランソワ役だよ。だから逃走経路を確認しておこうと思ったら変な人がいて……ゆいが君助けて!」
これが女の子の基本性能だよね。学校の子達も私も前と城君の前では態度が全然違うもんな。
「変な人? どこに?」
辺りを見渡す結牙。
「この人よ! 私が練習するのを邪魔するの!」
さっきは確認って言ってたのに。
「ふぅん……この人は僕の最愛の姉なんだけど……今日は無理言って来てもらったんだよね……それを変な人? 売れっ子で事務所も大きいからって勘違いしてない? いい身分だよねぇ……たいして演技力もないくせにフランソワ役? そりゃあセリフもないしただ走るだけかも知れないよ? でもあなたにできるのか!? スタントなし! 撮り直しなしの一発勝負だよ!? 踊りも下手くそで顔しか取り柄のないあなたに!」
結牙がキレてる……それより話が違う。ただ歩くだけなのが走るになって、それがスタントなしの一発勝負って……この子は昔から私が何でもできると勘違いをしているんだよな。まさかこんな場面でもそうなるとは。
「ね、姉さん!? 嘘! こんなドブスが!? 全然似てないじゃない! 冗談はやめてよ!」
「ドブス? 安珠薇さん、あなたは頭だけでなく目まで腐ってるのか? それより福原さん、いつフランソワ役を安珠薇さんがやることになったんですか? 監督からは何も聞いていませんよ。」
このマネージャーさんは福原さんと言うのか。
「そ、それはその、安珠薇が急に……」
「いつものわがままですか。福原さんも大変ですね。一度現場を走ってみることをお勧めします。じゃあね、二度と僕に話しかけないでね。」
「そ、そんな、ゆいが君……」
「姉さん行こう。最後の打ち合わせがあるから。」
「う、うん。」
射殺さんばかりに私を睨む彼女。なんて無駄なことを。売れっ子ってことは有名なんだよね。それなら素直に監督にお願いすれば済んだろうに。芸能界って怖いな。
その後、撮影は何事もなく終わった。入り組んだ狭い通路を走り抜けるだけなのでそこまで難しくはなかった。予定より大きな爆発が起こったり、予定外の場所に木箱が落ちてきたりしたけど。
後で撮影したフィルムを見せてもらったけど、所々体のキレが悪い。動きに不自然さが出ている。予想外の事態に冷静に対処できなかったせいだ。エキストラだから堪えてもらおう。もう通路は全て崩れ去ってしまっているのだから。
ちなみにストーリーは、とある女の復讐劇。私がやったのは過去のワンシーンだそうだ。罠にかけられ、危険な場所へと追い込まれた女が最後の力を振り絞って逃げるシーン。全力で走るよう言われたのでその通りにした。監督がOKと言った以上問題はないのだろう。
過去を消し去って復讐のみに生きる女だから過去のシーンでは顔が一切見えないらしい。監督によると後ろ姿のイメージが合う女性スタントマンがいなくて困っていたらしい。そこに結牙が声をかけたとか。聞いていたはずの話がころころと変わっていく。これが撮影現場というものなのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます