第16話 ドブスは弟とお出かけする

夜はパパ、ママ、弟と四人でお寿司。城君が大変な時にいいのかな、とも思ったけど……私が断食したからって治るわけでもないし。気にせず楽しく食事をした。


パパは私と同じ痘痕あばた顔。私と違うのは子供の頃の病気が原因ってことらしい。




あぁ、美味しかった。弟がいつもここに来たがるのも当然だと思う。ここのお寿司は本当に美味しい。きっと日本一だ。お寿司はここでしか食べたことがないから当たり前かな。


それから私と結牙ゆいがはタクシーで先に帰された。パパとママは二人で飲みに行くそうだ。お酒……やっぱり大人になったら私も飲むものなんだろうか。

もしかしたら恋愛と同じなのかな。知らなければ無くても問題ないけど一度知ってしまえば、それを失った時の苦痛は計り知れない。

それは困るかも。


少し前までは、城君がいなくなっても元の生活に戻るだけだって思ってたけど……もし今、城君から罰ゲームでしたー。お前なんか用無しでーす。なんて言われたら……想像するだけで怖くなる。

世の女性は……みんなこんな恐怖を抱えながら生きているの? 強すぎる……みんな強すぎるよ。



「姉さん、姉さんって。着いたよ。降りようよ。」


「あ、ああ。どうもありがとうございました。」


「毎度どうもー」


もう着いていたんだな。




「あ、そうだ姉さん。ちょっとエキストラやってくれない?」


「エキストラ? って映画か何かの?」


結牙がコーヒーを飲みたがるものだから豆を挽いていたら。いきなり何を言ってるんだろう。


「そうそう。例のオーディションとは関係ないんだけどさ。端役ではあるけど勉強がてら出てみようと思ってさ。姉さんはただ歩くだけでいいからさ。」


「顔が映らないならいいよ。どれぐらい時間がかかるものなの?」


「2、3時間だと思うよ。じゃ、明日よろしくね。」


「明日!? いきなりだね。まあいいけど。夕方までには帰りたいんだからね。頼むよ。」


「たぶん大丈夫だよ。エキストラだし。はぁ姉さんのコーヒー美味しい。」


豆がいいからに決まってる。小笠原産イエローマウンテンブレンド。あと水とミルも。ママが拘って揃えてるんだから。はぁ美味しい。




翌朝。パパが帰ってきていた。


「おはよう。パパは今日お休み?」


「おう。やっと休めるぜ。静香はお出かけにしちゃあ地味な格好してんな?」


「うん、結牙がエキストラやってくれって言うから。服装はこんな感じがいいんだって。」


そこらをランニングするようなスポーティーな装い。これに運動靴を履けば問題ないだろう。


「おはよー。あ、パパおかえり。あれ? ママは?」


「おう。由乃よしのぁ寝てんぞ。疲れたんだとよ。2人して撮影かぁ。頑張ってこいや。おっと、出る前にこいつを食っとけよ。」


「うん。いただきます。」


「いただきまーす!」


パパが料理を作るといつでもお肉。朝からステーキだなんて。弟は嬉しそうにはしてるけど……あ、美味しい。見島牛のヒレかな。さすが天然記念物だけある。




「じゃあ行ってきまーす!」


「行ってきます。」


「おう。吾妻あずまによろしく言っとけ。」


吾妻さんって誰だろう? ちょうど結牙のマネージャー、安達さんが迎えに来たので出発だ。


「おはよう結牙。あ、お姉さんもおはようございます。付き添いですか?」


「いや。ほら、例のエキストラ。姉さんにお願いしたんだよ。走るだけだし。」


「おはようございます。いつも結牙がお世話になっております。今日はよろしくお願いいたします。」


「なるほど。結牙のお姉さんなら足も早いのかな。それはありがたいね。」


安達さんは10年前から結牙を担当してくださってるマネージャーさん。最近仕事のない結牙のことをとても心配してくれている。だから今日は端役らしいけど気合が入っているそうだ。私は走るだけみたいだけど頑張ろう。昨夜は歩くだけって聞いたような?




到着したのはまるで大昔、どこかの赤レンガ倉庫みたいな所。


「じゃあ監督に挨拶して、それから軽く現場を確認しようか。」


「姉さんこっちだよ。」


初めて来た撮影現場。こんなにたくさんの人がいるものなんだ……


「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」


結牙が挨拶をしている。この人が監督なんだ。怖そう……私も挨拶しないと。


「御前 静香と申します。本日はエキストラとして参加させていただきます。よろしくお願いいたします。」


「おう。結牙と姉ちゃんか。大きくなっても顔はオヤジそっくりだな。ちいっと危ねぇがあいつの娘ならイケるだろ。頑張ってくれよな。」


「あっ、昔何度か……失礼いたしました。」


確か私が小学校低学年の頃、うちで見た覚えがある。


「吾妻監督、父がよろしく言っとけ、だそうです。朝からステーキ食わされましたよ。」


「あいつも変わらないな。じゃあ今日は頼むぜ。」


この監督が吾妻さん。パパのお友達なんだな。



それから私は衣装をチェックされ、走る場所を確認した。狭くて入り組んでるけどそこまで難しくはなさそう。軽く走ってみたけどたぶん問題なし。でも監督は少し危ないっておっしゃってたけど。


「ちょっと! この役は私がやるんじゃなかったの!? このブスどこのどいつよ!」


この人は誰だろう……?

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