第14話 ドブスはさらなる真実を知る

「さっきクソ兄貴が言ってたろ? 俺のことをスペアってさ。」


「うん、言ってたね。」


「どんな意味だと思う?」


「えっ?」


スペア……予備? 九狼君が水本グループの跡取りの予備って意味かな。本家の御曹司は水本先輩だけだって話だし。


「そのまんまの意味だよ。俺だけじゃない。俺達の父親、水本 溜知には何人もの子供がいる。そいつらは全員スペアなんだよ!」


「ごめん九狼君、よく分からないよ。跡継ぎ的な意味じゃあないの?」


「ああ、違う。パーツ的な意味だ。」


「パーツ?」


ますます分からない。九狼君がパーツ? 組織の歯車ってこと?


「数回しか会ったことはないが、父は傲慢な男だ。自分以外、いや自分と佐朝すけとも以外は物としか思ってないらしい。俺達のような妾腹の子は部品としか思ってないんだ……臓器のな……」


「臓器!?」


「ああ、臓器さ。もっともそれを知ったのは昼間のことだがな。母さんが話してくれたのさ。涙ながらにな……目先の金に釣られてあんな男の愛人になった自分が愚かだったってな。」


「で、でも臓器ならわざわざそんなことしなくてもクローンの方がいいんじゃ……?」


国内で十指に入る企業のトップならば、自分のクローンを作った方が拒絶反応もなく便利な気がするけど……


「所詮クローンなんて現在の自分の歳を基準にしちまうから活きが良くないんだとさ。若さに勝るものはないんだとよ!」


「そんな……はっ、だからたくさんの愛人に子供を作らせたってこと? 適合の可能性を少しでも上げるために!?」


「そうらしいぜ。小さい頃からあんな親父ならいなくていいって思ってたけどさ……舐めてるよな……俺の生まれた意味は……予備だぜ?」


そんな……生まれながらに予備だなんて……酷すぎる……


許せない……


「だがいいタイミングでもある。このまま何も知らずに生きてたら、ある日突然臓器取られて終わってたかも知んねー。やっぱり静香に出会えたことは俺にとって幸運だったんだ。」


「九狼君……」


「ところでそろそろ苗字で呼ぶのやめねー? 普通にじょうって呼んでくれよ。」


「あ、そうだね。城君だね。」


男の子を下の名前で呼ぶなんて、弟以外では初めて。なんだか不思議な感覚だな。


「少しは照れろよな。まったく静香は変な女だぜ。」


そう言って城君は私の頬に唇を寄せ、なっ! それって!


「ちょっ、ちょっ城君!? 何すっの!」


「あははは。静香でも慌てることあんだな。お前の肌って見た目はブツブツなのにしっとりと柔らかいな。掌と一緒か。」


「もー! ブツブツとか言わないでよ! でも、ありがとう。」


さすがに信じられない。誰もが気持ち悪がる私の顔に、何の躊躇もなく……く、くち、口づけを……信じられないぐらい嬉しい……

私はどうしたら……


「あれ? 静香、お返しがないぞ? 待ってんだけど?」


「お返し?」


城君は自分の右頬をちょんちょんと指差している。なっ、まさか?


「そう、お返し。それとも嫌か?」


「い、いやだなんて……」


さっきから私達は密着している。私が少し顔を動かしたら、それができてしまう……

でも城君が待ってくれてるんだから……勇気を、出そう。


目を瞑ったまま城君の右頬に顔を寄せる。私は今どんな顔をしているの? 分からない……でも、このまま……




これが城君の頬……暖かい……少し湿ってるのかな。少し動いてる……え!?


「城君!?」


「静香の唇はいただいたぜ。これでリハビリも頑張れそうだ。」


「わ、わた、私、城君の唇に、城君と? キ、キキ、キス、した?」


「ありがとな静香。大好きだぜ。」


私なんてことを……いいの? こんなことして!? で、でもあの感触……私の初めての……


「もう1回していい?」


え? 私何言ってんの!?


「当たり前だ。」


あうっ、城君の方からされてしまった。これが……キス……一生知らずに終わると思っていたのに……




そうか……これが、幸せなんだ……

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