第13話 ドブスはお見舞いに行く

どうにか弁田君に事情を伝えることはできた。彼も今日の部活後にお見舞いに行くそうだ。


教室に入るといつも通り、私の机は落書きだらけ。正座しないで済むだけましかな。内容は九狼君関連の罵詈雑言ばかり。1人ぐらい『早く良くなって』って書いてくれてもいいのに。




お昼休み。教室で1人お弁当。心配で喉を通らないなんてことはない。私は薄情なんだろうか。その間も他の生徒達は私への嘲笑と悪口で忙しいようだ。ちなみに北条は決して私に関することを口に出さないし直接目を向けようともしない。あくまで自分は何もしておらず、私ごとき眼中にないと言いたいのだろうか。どうせなら徹底的に無視してくれたらいいのに。




やっと放課後。すでに校門前にタクシーは呼んである。急いで病院に行かないと。乗り込む前に数人に絡まれたけど相手にしている暇はない。早く、早く。

ちなみに最近は靴をロッカーにしまっているからいつも無事。だから帰りもスムーズだったりする。




病院に着いた。着いてから気付いた。最近は親族でも受付で病室を教えてもらえないんだった。優極秀院大学病院はかなり大きいから探し回るわけにもいかない。途方に暮れた私はスマホを手にする。あ、メッセージが来ている。九狼君だ!


『病室は503。見舞いに来てくれたら嬉しい』


これが以心伝心かな。すごく嬉しい。すぐ行こう。




501……502……503……ここだ。


「九狼君……?」


「静香。来てくれたのか。ありがとう。」


「そ、その、具合はどう?」


「めちゃくちゃ痛いよ。痛いのにさっきまでリハビリやってた。信じられないぜ?」


「そんな! 大丈夫だったの!?」


「大丈夫じゃないさ。今でも痛くて泣き喚きそうなんだから。静香の前だからどうにか落ち着いた振る舞いをしてんだよ。」


「そうなんだ……あ、弁田君にも伝えておいたよ。部活後に来るって。」


「そっか。ありがとな。ちょっと屋上に行こうか。それをこっちに頼む。」


歩行器って言うんだったかな。両膝を折ったのにもう歩くの?


「ふうぅ、よし行こうか。」


九狼君は辛そうに歩いていく。


「そんなに無理していいの? 大丈夫?」


「ああ、とにかく歩きまくれって言われてさ。よし、行こう。」


九狼君が頼りない足取りで病室を出ようとした瞬間、鉢合わせになった。水本先輩と北条。なぜここを知っているのだろう。


「ほう? もう歩けるのか。どうやら大した怪我じゃなかったようだな。」


「先輩、何しに来たんですか?」


「ちょっとじょう佐朝すけともはあなたのお見舞いに来たに決まってるじゃない!」


「はっ、雅子みやびこ。心にもないこと言うなよ。確認に来たんだろ? 俺の状態をな? 見ての通りだ。俺は治るそうだぜ? 絶対バスケができるまでに回復してみせる。もうお前らの言いなりになんてならないからな!」


あれだけの大怪我をしたのに九狼君の心は折れていない。そんな彼がすごく誇らしい。


「ほう? デカい口を叩くじゃないか。所詮お前らはスペアだってことを忘れるな。その方が長生きできると思うがな?」


「いやぁ不良品ですいませんね。小さい先輩にはサイズが合わないんじゃないですか?」


「城! あなたねぇ!」


「お2人とも。ここは病院です。お見舞いに来たのでないならお帰りください。」


さすがに黙っておれない。立つのもやっとの怪我人に向かって何を考えてるんだろう。どうやら2人とも私とは口をききたくもなかったようでこちらを見もせず無言で帰っていった。


「静香、ありがとな。助かったぜ。」


「うぅん。こんなことしかできなくてごめんなさい。やっぱり屋上行く?」


「ああ、行くぜ。後ろから見ててくれ。静香が見てくれてると思うと無様な姿は見せられないからさ。」


「うん。気をつけてね。」


当然だけど九狼君は看護師さんにも人気らしくて通り過ぎる女性看護師さんが例外なく声をかけていく。時にはスキンシップまで。誰も私のことが見えてないらしい。




屋上に出るには1ヶ所だけ段差がある。さすがに歩行器では難しい。


「九狼君、私に掴まって。先に歩行器を行かせるから。」


「あ、ああ……」


ほっ、無事に超えられた。それから九狼君を歩行器に掴まらせて……よし、これで大丈夫。


「静香って細いのに力があるんだな……」


「そう? でも九狼君の助けになるのなら嬉しいよ。」


フェンス際まで移動する。初夏の太陽は暑苦しい。梅雨よりいいかな。




「静香はさ、生まれてきた意味って考えたことあるか?」


「ないよ。将来の夢がなかったように、そんなこと考えたこともなかったよ。」


いきなり難しい話をするんだな。私だってママみたいな顔だったらって考えたことは何回もある。でも、それは意味のないことだ。ママは女優という揺るぎない生き方をした結果としてあの顔、あんな存在になったんだと思う。一部では『女媧じょか』って呼ばれてるとも聞いたけど。だからママの域に達していない私がそれを望むことは不自然だと思う。


「俺もさ。考えたこともなかった。今日まではな。」


今日までは?

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