第11話 ドブスは駆けつける
はあ、楽しかった。まさかあんなに幸せなことが起こるなんて。明日も楽しみだな。何を作ろうかな。
こんな遅く帰るなんて初めてかも。夜道を自転車で走るのも楽しそうだけど、ママの言いつけ通りタクシーで帰ろう。1000円ぐらいかな。
「ただいま。」
「姉さん遅い! こんな時間まで何してたんだよ! 心配したんだから!」
「ママには連絡したけど聞いてないの?」
「聞いたよ! 彼氏の家に行ってたんだろ! だから心配したんだよ!」
「じゃあ何があったか話してあげるね。」
「おかえり。いいことがあったみたいね。こっちも面白いことが分かったわよ。まずは静香の話を聞かせてもらおうかしら?」
「うん!」
私は今日知ったことを二人に話して聞かせた。結牙は顔色をあれこれと変えながら聞いていたが、ママはいつも通りだ。
「なぁんだ。自分で白状したのね。意外に筋の通った男の子だったのね。見直したわ。」
「え? ママ、知ってたの?」
「さっき面白いことが分かったって言ったわね。そのことよ。そうね……もうすぐ夏休みだし、静香にプレゼントでもあげようかしら。本当は高校を卒業したらあげるつもりだったんだけど。」
「ママがいつも言ってたあれのこと? 毎月受けてる病院の検査結果次第だって……」
病気でもないのに小さい頃から月に1回大学病院で検査を受けてるけど、もちろん異常なし。ヒドロキシ何々とか遺伝子がどうとか言ってたけどさすがに難しすぎて分からない。
「そうよ。静香にも、彼にとってもいいプレゼントになると思うわ?」
「あ、その九狼君だけど今週土曜日の夜にうちに来たいって。パパとママに謝罪をしたいって。」
私が九狼君のおうちにお邪魔したのも緊張したけど、九狼君がうちに来ることを考えるとまた緊張する。
「もちろんいいわよ。パパにもなるべく帰ってくるよう言っておくわ。結牙はどうなりそう?」
「絶対帰ってくるよ! つまらない男だったらぶっ飛ばしてやるから!」
結牙は私より弱いくせに……あ、電話。あれ? 九狼君からだ。わざわざ電話なんて珍しいな。
「もしもし九狼君?」
「えっ、あっ、先ほどはどうも、えっ!? そ、そんな! 九狼君が!? それで病院はどちらで!? はい! はい! 分かりました! すぐ行きます!」
「静香、どうしたの?」
「く、九狼君が私を送った駅からの帰りに自転車で転んで……両脚を折ったって……今、優極秀院大学病院で手術してるって……お母さんが……私行ってくる!」
「待ちなさい。私も行くから、少し待ってなさい。」
「う、うん……」
あんな道を、私を送ったせいで、暗い時に通ったから……
「どう考えても姉さんのせいじゃないからね。」
「結牙……」
「どんな道を通ったのかは知らないけど自転車でこけたぐらいで両脚を折るって普通じゃないよね。姉さんが気にするレベルじゃないと思うよ?」
「そう、かもね……」
ママの着替えが終わったみたい。夜なのにサングラス。いや、まあ理由は分かるけど。
「行くわよ。結牙はさっさと寝てなさい。」
「はーい。気をつけてね。」
ママは大好きだけど、ママの車は嫌いだ。音はうるさいしシートはツルツルで堅くて座りにくい。おまけに加速と減速が激しくてたまに酔ってしまう。でも、今はこの車がありがたい。考えられる最速で病院に到着できそうだから。
「着いたわ。車を止めてくるから先に行ってなさい。」
「うん! ありがとう!」
私は走る。よく来る病院なのだから手術室だって分かる。いた! 九狼君のお母さん!
「静香さん! 来てくれたの! わざわざごめんなさい……あぁどうしてこんなことに……」
「ごめん、なさい……私を、私を送ったせいで……夜道を走った、せいで……」
「それは違うの……さっきは話せなかったけど、明らかに転んでできる怪我じゃないって……」
「えぇ!? どういうことですか!?」
「何らかの犯罪に巻き込まれた可能性があるそうなの……」
犯罪……なぜ九狼君が……こんな目に遭わなくちゃいけないの……
はっ、せっかく決まった実業団からのオファーは? 延期? 取り消し? そんな馬鹿な……こんなことって……九狼君……
いけない、また泣いてしまう……お母さんが気丈に振る舞っておられるのに、私が泣いてしまうわけには……どんなイジメを受けても泣いたことなんかなかったのに……
「こんばんは。娘がお世話になっております。」
ママ……
「あっ、こ、この度はうちの息子がとんだご無礼をいたしまして……大変申し訳ございませんでした……これも天罰かも知れません……申し遅れました……
「
犯人?
「あなたと水本グループの関係、城君の出生に関しては今日の昼に知りました。奇妙なタイミングでしたね。そして
え? そんなことまで? 一体ママはどこまで……
「そこまでお分かりだったのですか……失礼ですが
「この顔に見覚えはありませんか?」
ママはサングラスを外した。
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