第5話 ドブスは襲われる
そして何事もなく放課後。約束の時刻にはまだまだ余裕がある。そうなるとやはり勉強をするべきだ。数Ⅲの復習でもしてよう。
「おいきっとあいつだぜ……」
「こんな時間に体操着だもんな……」
「うっわマジかよ……期待してたのに……」
「いやあん時はすごかったんだって……マジで……」
男の子達が私を見ながら何かヒソヒソと話しているようだ。イジメの種類としては陰口なんかはいつものことだけど、面と向かって暴言を吐かれたことはない。たぶん私と喋りたくもないんだろう。
「もし本当なら今あいつは……」
「上も下も何もなしで……」
「でもブス香だぜ……目が腐るぞ……」
「顔なんか隠せばいいさ……体はマジで……」
何をヒソヒソ言ってるんだろう。どうせなら聞こえるように言って欲しいのに。あの4人には見覚えがないけど、体育科かな。部活に行かないのだろうか。あ、近寄ってきた。
「よーブス香ー。ちょっと聞きたいんだけどさ?」
酷い呼び名だ。もちろん返事などしてやるものか。
「てめぇ……何シカトこいてんだ、あぁ?」
「ブス香の分際で何様だ?」
「おらっ!」
机を蹴飛ばされた。これは酷い。なんて短絡的なんだ。これが体育科……
「何か? ブスが感染るから接触しないんだよね?」
そう。今まで暴行の類を受けたことがない理由はそれ。私に触るとブスが感染る。それを広めたのはもちろん北条だろう。高校生にもなってまさか本気にしているとは思えないが、彼らも机は蹴っても私に触れようとはしない。
「お前よ、昼休みの終わり頃、屋上んとこの階段の踊り場で着替えてたよな?」
「それが?」
「いやーこいつがさぁ、顔は見えなかったけど透き通るような白い肌の美人が真っ裸になって着替えてたって言うからよ?」
「そうそう。どんだけ美人か探してたんだぜ? 体操着にジャージって話だからすぐ見つかると思ったんだけどな?」
「まさかブス香とはなぁ? お前目ん玉腐ってたんじゃね?」
「違うって! あん時はマジすごかったんだって! どこのモデルが着替えてんのかと思ったんだって!」
「で、何か? 婦女暴行でもしに来たの?」
私を相手に何を考えてるんだか……
「ぷっ! ぎゃーはははは! 婦女暴行だってよ! てめぇの顔を鏡で見てみろよ!」
「誰がブス香なんか襲うかよ! 立つわけねーだろ! 期待してんじゃねーよ!」
「やっぱお前の目ん玉、いや脳みそが腐ってたんだろ! 今夜は早く寝ろよ!」
「いやいや違うって! マジだって! そうだ! ブス香、ここで脱げ! そしたら俺が嘘を言ってないことが分かるぞ! 男の前で服を脱ぐチャンスなんか一生ないぜ? ほれほれ!」
これが体育科……本当に脳みそが腐っている……
「脱ぐわけないよ。君達も男なら力尽くで脱がせてみれば?」
あんな所で着替えた私にも非がないわけではない。だからって自発的に脱いでなんかやらない。敵わなくても抵抗ぐらいする。
「ぶはっ! こいつ脱がせて欲しいみたいだぜ! だよなだよな! そうでもなければ一生脱がせてもらえないよな!」
「俺は嫌だぜ! 手が腐るじゃん! だから自分で脱げって言ってんのによ! 誰がそこまでサービスしてやるかよ! ブス香なんかに!」
「だよなぁ! そんな汚ぇダリぃことなんかやってらんねぇぞ。帰ろうぜ? お前の頭が腐ってたことは黙っててやるからよ?」
「なんだよブス香のくせに! あっ! さてはバスケ部の
さすがに付き合いきれない。どれだけ私の人権を蹂躙するつもりなんだろう。彼女面も何もフラれる時まで私は九狼君の彼女なんだけど。ああ、少し九狼君に会いたくなった。あと1時間か。
「あれって罰ゲームじゃねぇの?」
「いや、そんな話は聞いてねーぞ。でも絶対罰ゲームだよなあ?」
「物理的にあり得ないもんな? もしかして九狼もこいつと一緒で頭が腐ってんじゃね?」
「だーかーら! 俺はまともだっての! もういい! 帰る!」
それから体育科の4人はウェイウェイ言いながら帰っていった。結局机は蹴り飛ばしたけど私には指一本触れてない。そんなに私が気持ち悪いのだろうか……
はあ……勉強しよう……
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