第3話 ドブスは机を隠される
「静香、おはよう。」
「九狼君……おはよう。いつもこの時間なの?」
驚いた。朝から駅で九狼君に会うなんて。
「いや、静香が来るのを待ってた。一緒に行こうぜ?」
「う、うん……」
改めて思うが九狼君は正気なのだろうか。いくら罰ゲームだとしても私のような女と一緒に登校するなんて、もはや拷問ではないだろうか。私の顔はパパにそっくり、まるで岩石だ。特に病気をしたわけでもないのに
「ちょっ! 九狼君が!」
「えっ、ちょマジで!? あれってブス
「誰か聞いてないの!? 絶対罰ゲームだよ!」
「アタシ
弁田
「手、かせよ。」
「手? 手がどうしたの?」
「いいからかせよ。ほら、こうやって。」
「なっ……」
これが伝説の恋人つなぎ……ただの握手とは違う密着感……世の中の恋人達は皆、このような快感を味わっているのか……
私も今のうちに楽しめるだけ楽しんでおこう。後でどれほど笑い物にされようと、今を楽しむことが大事と見た。
でもおかしいな? 皆の反応は宇宙人でも見たかのような驚きばかりだ。珍獣を嘲笑する感じがない。罰ゲームってことが周知されてないのだろうか?
「じゃあ俺2組だからあっちな。昼だけど一緒に食わないか?」
「うん、じゃあ屋上で。」
「おう、楽しみだな!」
クラスが違うので下駄箱前で手を離す。
屋上か……昼休みの屋上ってカップルが多いらしい。つまり人外魔境だ。私もついにそこに殴り込むことになるなんて……九狼君には感謝しないとな。用意しておいてよかった。
教室に入ると、視線が一斉にこちらを向く。普段徹底的に無視されてるだけにこのような反応は珍しい。これも九狼君の効果か。
あっ、机がない。またか……
仕方なくロッカーからクッションを取り出し机があった場所に置き、正座をする。この学校のロッカーは金庫並みの丈夫さで鍵もかかるため何かを盗まれたことはない。ありがたい。今思えば、体育や美術のたびにロッカーに教科書全てをしまい込むのは面倒だったので机に入れっぱなしにしておいたのは失態だったな……
さほど広くもない教室なのに遠巻きに私を見るクラスメイト。ヒソヒソザワザワと話しているが、不思議と嘲笑がない。変だな?
「ね、ねえ
彼女は確かバスケ部のマネージャーだ。普段私をいじめる部類ではないが口をきいたことはない。正座をしている私に上から声をかけてきた。
「少なくとも私はそう思っているよ。」
「え、そ、そんな……何かの間違い、じゃ……」
「それを私に言われても。本人に確かめてみたら?」
「御前さんは……九狼君のどこが好きなの……?」
「昨日初めて話したんだからそんなこと分からないよ。ただ彼ほどの男の子に好きと言われて嫌な気はしないよ。」
「そ、そんな! じゃあ好きでもないのに付き合ってるの!?」
「分からないよ。だって初めての経験だから。好きって何? 付き合うって何?」
「え、いや、そ、それは……その胸のあたりが熱くなったり……その人のことを考えると夜も眠れなくなったり……」
「そうなんだね。いつか私もそんな経験ができる日を楽しみにしておくよ。」
「う、うん……」
結局彼女は何が言いたかったのかな。もしかして九狼君のことが好きなのかな。色白でショートカット、活動的そうな体つきで顔だってシミひとつなくて可愛らしい。やはり九狼君は正気なのだろうか。
担任の菅原先生がやって来てホームルームが始まる。
「おう御前ぃ、お前の机そこに運んどいたけぇの。」
「ありがとうございます。」
この先生はイジメを止めようともしないがこうやってフォローはしてくれる。たぶん昨日置いて帰った靴が今朝下駄箱になかったのも先生が処分してくれたんだろう。
「おうお前ら! イジメをやめぇとは言わんわい。それも一種の生存競争じゃけぇのお。じゃがのぉ、そんな時間があったら一問でも問題解けやぁ! そんなことじゃけえいっつも御前がトップなんじゃあ! イジメたけりゃあ御前を抜いてからにしろやぁ!」
変な先生、変な学校。でも、嫌いじゃない。ママもそうだけど、そんな人がいるせいか全然惨めな気持ちにならない。
一時間目が始まる前に机を中に運び入れる。
あれ? これじゃない。私の机は落書きだらけのはずなのに。菅原先生……
おかげで昼休みまで気分よく授業を受けることができた。正座も悪くないけど少し書きにくいからな。
よし、屋上に行こう。
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