第2話 ドブスは教科書を破られる
駅から自宅までは1500円。本当なら学校付近に呼ぶところだけどせっかく九狼君と話せるチャンスだったから歩いてみた。
「ただいま。」
「おかえり。あら? 裸足なのね。今日は何をされたの?」
「靴に何かの糞が入ってたよ。」
「ふーん。じゃあ明日はこの靴を履いていくといいわ。」
「ありがとう。オシャレなブーツだね。」
「ルブタンよ。意外に歩きやすいわ。」
それからはティータイム。今日の茶葉はアッサムのダフラティン・ファーストフラッシュ。はぁ、美味しい……落ち着く。
茶飲み話がてら九狼君のことをママに伝えてみる。やはり罰ゲームなのだろうか……
「へぇ。じゃあ静香は彼のことは嫌いじゃないのね?」
「う、うん……別に罰ゲームでもいいかな、って……」
「いい心がけね。いつも言ってるけど心まで卑屈な不細工になってはダメよ? あなたは醜いアヒルの子みたいなものよ。自信を持っておきなさい。」
「う、うん。」
ママは美人だ。そして自信の塊だ。だからなのだろうか、私の顔を不細工だと思っていることを隠しもしない。でも、私のことを自慢の娘だとあちこちで吹聴しているのも事実。
イジメのことを初めて相談したのは1年前、高1の6月ぐらいだった。高校生になって初めての中間テスト。私は学年1位をとった。それまでも小さな嫌がらせはちょくちょくあったけど、その日からは一段と酷くなった。
例えば体育の後、教室に帰ってみれば教科書やノートがズタズタに切られていた。そして机には油性ペンで落書き。『ブス!』『死ね!』『キモいんだよ!』『ブツブツきめぇ!』『ガリ勉クソ女!』などなどだ。
他のクラスにも友達なんかいない私は誰にも借りに行けず、教科書のない状態で授業を受けた。ちなみに机の落書きは放置だ。面倒くさいのでわざわざ消す気などない。
「では
そんな時に限って当てられるんだね……
「はい……」
25ページ……
「どうしました? 早く読んでください」
周囲からはクスクスと笑いが聴こえる。3行目は……
「その少年は手入れの行き届いた指先を厚化粧の女に突きつけてこう言った。『うるさい、証拠はないが犯人はお前だ!』突然の言いがかりに女性は慌てふためきしどろもどろになっている。『なっ、なんのことざましょ! あ、アタクシが犯人だなんてあの時誰も見てなかったざます!』
『ああ、だが証拠は見つかったようだな。あの時とやらのことを話してもらうぜ?』
厚化粧でも隠し切れないほど女性の顔面は蒼白となっていた。背後には怖い顔をした刑事達が控えている。もう逃げられない。そう覚悟した犯人は……」
「はい、そこまで。抑揚のあるいい音読でした。では次を……」
ほっ、こんな時のために教科書の中身を全部覚えておいてよかった。あ、北条がこっちを睨んでる。直接私を見ようとはしないけど、悪意だけは伝えたいのだろうか。どうしても私に恥をかかせたかったらしい。
ちなみにこのことをママに話したところ、新しい教科書はいくらでもあるからさせたいようにさせておくよう言われた。ただし決してうろたえる様を見せるなと。
優極秀院高校のモットーは『弱肉強食』イジメだろうが何だろうが生徒間の揉め事に学校は口を出さない。先生からは日々、負けたくなければ強くなれと言われるような学校だ。これが全国でも指折りの進学校……
それから1年と少しが経ち、相変わらず私は首席だ。2位が誰かは分からない。イジメを受けて抵抗しない私と友達になってくれる人などいない。だから誰が何位などという情報はさっぱり知らないのだ。
そして今日もまた1日が始まる。たぶん昨日までとは違う1日が……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます