「決心」※西園寺視点
私達は、ファミレスでいつも通りなんでもないお喋りを楽しんでいた。
だけど、健児だけは少し様子が可笑しかった。
私はこれまで、何度か健児に告白をされているのだけれど、その全て断っている。
そんな私が、いきなり知らないイケメンと話をしていたのがどうやら彼にとっては気に食わなかったようだ。
でも、健児は私の彼氏ではないし、何かある度にこういう態度を取られるのは正直そろそろしんどかった。
健児は普通にモテるんだから、私なんかよりもっと他の子と付き合えばいいのにって思うのだが、彼は中々諦めてくれない事が私の最近の悩みになっている。
そして、話も一段落したところで、そろそろ帰ろうかと私達は席を立ちレジへ向かっていると、私は一つのボックス席に目を奪われてしまった。
なんとそこには、まだ先程の山田くんが残っていたのだ。
しかし、その隣と向かいの席には、これまでの人生でも見たことが無いような美人の女の子が二人座っていた。
その光景に、私は動揺した。
中学卒業以来、ずっと会うことすらなかった山田くんは、当然私の知らないこれまでの間に色々とあったはずなのだ。
それでも、私は心のどこかで楽観視していた。
彼ならきっと、あの時のようにずっと異性を遠ざけ続けているだろうと思っていたから――。
でも、今目の前にいる山田くんは、自分なんかとは比にならないような美人な女の子達と勉強会をしているのだ。
それはつまり、さっきまで私達が勉強もせずにただ喋って遊んでいた間も、彼らはこうしてずっと勉強していたという事だ。
もう、なんて言うかそういう部分含めて、私は酷い劣等感に押し潰されそうになってしまった。
「山田くんまだ居たんだ! てか、え? すっごい美人さん連れてるけど、何? どういうこと!?」
それでも私は、この場を黙って通り過ぎる事なんて出来なかった。
山田くんと彼女達の関係を探るためにも、私は自分を隠して軽率な自分を演じて話しかけてしまったのだ。
「うわ! 本当だ美人すぎ!」
「何? 芸能人!?」
ミキとチエも、目の前の二人の美人さに驚いていた。
「あー、その、同じクラスの友達的な」
「そうなんだ、へぇ……。てか、山田くんのクラスの顔面偏差値どうなってんのよ」
友達なんだ……良かった。
そう安心した私は、笑いながら冗談を言う余裕が生まれた。
付き合っているんじゃなければ、私にもまだチャンスがあるかもしれないと、そう思うことは出来たから。
「へぇ、彼氏じゃないならさ、君めっちゃ可愛いし連絡先交換しようよ?」
しかしその時、あろうことか健児が山田くんの隣の金髪の女の子に向かってナンパをし始めたのだ。
健児が私のいるところでそんな行動を取るのは初めてで、私はかなり驚いた。
きっといつもの私への当て付けの延長なのだろうけど、今の健児の表情はそれだけじゃないようにも思えた。
私から見ても絶世の美女である彼女を、健児は本気で口説こうとしていているのが伝わってきたのだ。
「しないよ」
「え? いや、そう言わずにさ」
「知らないもの」
「だからこれからお互い知ってこうって事でさ」
「必要ないよ」
だが、そんな健児に声をかけられた彼女は、キッパリと健児の誘いを断っていた。
私はその時、思い知った。
彼女は私なんかよりよっぽど綺麗で、そして中身も強いという事を。
私はこれまで、こんな健児に好意を向けられている事自体に悪い気はしていなかったのだ。
付き合うつもりはないけれど、諦めずにアプローチしてくる男子がいる事に、私は女としてのちっぽけな自信に繋げている自分が確かにいたのだ……。
でも、彼女はキッパリと断っていた。
健児が付け入る隙なんて微塵も与えずに。
私は、そんな彼女の毅然とした振舞いにより、健児は私なんかより他の人とくっつけばいいと思いながらも、付け入る隙を与えていたのは私自身だった事に気付かされてしまったのだ。
そう、改めて考えれば、そもそも付き合うつもりは無いと言いながらも、こうして一緒にファミレスへ来ている時点で可笑しい話だった。
だからこうして、当て付けがてら他の女の子を口説こうとする健児の方が、むしろ真っ直ぐだったんだ。
「健児、その辺にして」
私は、そう冷たく健児に言い放つ。
すると健児は、断られたことと私に言われた事で、渋々ながらもすぐに引いてくれた。
「感じ悪かったよね、ごめんね! じゃ私達行くから! バイバイ!」
そう笑って告げたものの、私はいち早くこの場から逃げ出したかっただけだった。
彼女を見ていると、自分の醜さが嫌になって仕方がないから。
◇
「……ねぇ、健児」
「な、なんだよ……」
ファミレスを出たところで、私は健児に話しかける。
私に話しかけられた事に、健児はばつが悪そうに返事をする。
「私、もうこうして一緒に遊んだりするのやめるよ」
「なっ!? ちょ! さっきのは別に!!」
私の言葉に、狼狽える健児。
「それはどうでもいいの。私は明日から、テスト勉強するよ」
「は、はぁ? 勉強?」
「うん、多分無理だけど、やりたいことが出来たから」
そう告げると、私は皆にバイバイして一人家路についた。
―――私は、彼と同じ大学へ行きたい。
―――それから、彼女達には負けないぐらいもっと可愛くなってやるんだ。
……なんてこんなの、これまで何も頑張って来なかった私では正直無理なのは自分がよく分かっている。
だけど、もし私も大学へ進学する事が出来たなら、どこかで女子大生として彼と接していられるかもしれない。
たとえ彼女達に敵わなくても、彼があんなレベルの子達と一緒にいるのなら、今のままの私じゃきっと見て貰えるはずもないから――。
だから、やるべきことは沢山あるんだ。
きっと今ここで変わらないと、私はずっと駄目なままだと思うから――。
――うん。これまでの私は、今日あのファミレスに捨て置こう。
叶わない恋かもしれないけど、この気持ちがあれば私は前を向くことが出来る。
今は、きっとそれでいい。
だけど次に彼と会うときまでには、必ず生まれ変わることを心に誓った。
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