「のんびり」
土曜日。
俺は、彼女である華子さんの家へと遊びにきている。
華子さんは家庭の都合で、現在一人暮らしをしている。
でも一人暮らしと言っても、駅前のタワーマンションに住んでいるため部屋はかなり広かったりする。
まぁそんなとにかく広い部屋の中、俺と華子さんは今日も二人きりで土曜日の昼下がりのんびりしているのであった。
「結構暑くなってきたね」
「そうだね、もうすぐ夏か」
窓の外を見つめながらそう呟く華子さんに、俺も呟くように返事をする。
そんな、何もしていなくてもこうしてゆっくりと流れる時間がとても心地好かった。
「太郎くん、はい!」
そのまま暫くぼーっとしていると、突然華子さんは俺の方へ向き直り正座をすると、そう言って自分の太ももをポンポンと叩く。
――えーっと、これはもしかしなくてももしかするのかな?
戸惑う俺が面白かったのだろう。
楽しそうにコロコロと笑う華子さん。
そして、
「膝枕だよ?」
少し頬を赤く染めながらそう告げる華子さんの姿は、誇張抜きに天使そのものなのであった――。
◇
広いリビングの真ん中、俺は今華子さんに膝枕をして貰いながら横になっている。
我ながら、意味の分からない事をしている自覚はある。
確かに俺はもう彼氏ではあるけれど、こんな天使のような高嶺の花の女の子に、膝枕をして貰っているのだ。
客観的に考えて、これは全くもって意味の分からない状況だと思う。
それでも俺は、一つだけ胸を張って言える事がある。
それは、俺は今きっと世界一幸せ者だという事だ。
華子さんの柔らかい太ももの弾力、そして香るフローラル系の香りが、俺の理性を揺さぶる。
「太郎くん、顔真っ赤だよ?」
そんな俺の顔を、上から覗き込みながら楽しそうに微笑む華子さん。
その天使のような笑顔を前に、俺の顔は更に赤く染まっていくのであった。
えいっ!
すると、そんな掛け声と共にいきなり華子さんは俺の頬っぺたをつついてくる。
えいえいっ!
プニプニ
えいえいえいっ!
プニプニプニ
「……も、もういいかな?流石に恥ずかしくなってきた」
「フフ、可愛い」
恥ずかしさに耐え切れず俺がそう言うと、今度は華子さんは俺の頭を優しく撫でてくれた。
その手から伝わる温もりはただただ心地よくて、俺はそのまま身を委ねる。
「ねぇ、太郎くん」
「ん? どした?」
「お昼は外に食べに行かない?」
「うん、いいよ。どこ行こっか?」
「私ね、ずーっと食べてみたかったものがあるの」
「へぇ、何かな?」
どうやら華子さんは、食べてみたい食べ物があるようだ。
なんだろ?
「……ラーメン」
「ラーメン?」
「うん、食べてみたいの」
ラーメンかぁ……確かに華子さんが食べてるイメージはないかな。
しかし、ラーメンを食べたことないって、流石は華子さん。
これまでの育ち方からして、どうやら人とは違うようだ。
「いいよ、行こうか」
だから俺は、華子さんの望みなら叶えてあげたいと思いオーケーする。
これから華子さんをラーメン食べに連れていく事を、華子さんの親御さんに心で詫びながら……。
こうして俺からオーケーを貰った華子さんはというと、「いいの? やった!!」とその大きなクリクリとした瞳を見開きながら、嬉しそうにキラキラと輝かせていた。
そして華子さんは、膝枕していた俺の頭を持ち上げて起こすと、「ちょっと待っててね!」と言ってそのままバタバタとリビングから出ていってしまい、暫くするとまたバタバタと戻ってきた。
そして戻ってきた華子さんは、「これ見て!」と嬉しそうに手にもっていた物をばっと開いて俺に見せてくる。
なんだ? と思いながら、俺はその広げられた物に目を向ける。
するとそれは、白地にでっかく「拉麺」とプリントされた大きめなTシャツだった。
「……えっと、華子さんそれは?」
「ついにこれを着て行く時が来たの!」
「……ごめん、それは却下です」
俺がそう即答すると、「えー、可愛いのに」と残念がる華子さん。
何が駄目なのか本気で分かっていないようで、そんな所もまた可愛い。
それでも、ラーメンを食べにラーメンTシャツを着て行く事だけはやっぱり却下させて貰った。
「華子さん、一体どこでそんなTシャツ買ってきたのさ」
「通販よ! 一目惚れね!」
嬉しそうに即答する華子さん。
一体そのTシャツのどこに一目惚れしたんだろうと、俺はやっぱりそんな華子さんに笑ってしまうのであった。
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