後日談

「再びカフェへ」

 ―――俺には、世界一可愛い彼女がいる


 彼女の名前は、山田華子。花子じゃなくて、華子だ。


 彼女は、そのありふれたその名前に似合わず、イギリスのクォーターでサラサラとした金髪ヘアーが特徴的で、白く透き通った肌は美しい。

 けれど、整っているがぷっくりとした顔立ちには愛嬌もあり、正直誰が見ても美人と称するような完璧な美少女だ。


 未だに、そんな美少女が自分なんかと付き合っている事が信じられないのだが、だからこそ俺は少しでもそんな彼女に似合う男になれるように日々努力している。


 そんな俺の名前は、山田太郎。

 彼女と同じく、無個性ネームの代表格だ。


 そんな俺は、彼女と違って名前相応に陰キャな男だった。

 けれど、そんな自分を変えたいと思った俺は、美容室で長かった髪をバッサリ切り揃え容姿を整えると、今ではそれなりにまともな見た目に生まれ変わる事が出来たのであった。

 そしてそれ以上に、俺は彼女である華子さん、そして初恋相手である田中さんのおかげで、内面的にも一人の男として成長する事が出来た。


 だから、自分で言うのもなんだが、今ではそれなりな男には成れていると思う。


 まぁそんなわけで、今日も周りからの視線を集めながらも、俺は彼女である華子さんと一緒に下校をしているのであった。




 ◇



「ねぇ太郎くん、久々にあのカフェ寄ってこ?」


 華子さんがそう言いながら嬉しそうに指指すのは、俺達が初めて行った駅前のカフェだった。



「うん、いいよ」


 断る理由なんてない俺は、華子さんの希望通りそのカフェへと一緒に入店する。



「いらっしゃ―――あっ!」


 そして店内へ入ると、すぐにやってきた店員さんが俺達を見ながら驚いていた。

 よく見るとそれは、あの時接客をしてくれた女性の店員さんだった。



「キャー! また来てくれたんですね! こちらへどうぞ!」


 どうやら店員さんは、俺達の事を覚えていてくれたようだ。

 嬉しそうに店員さんは、俺達をまた前と同じ個室の席へと案内してくれたのであった。



「店員さん、面白いね」


 そんな、なんだかテンションの高い店員さんを見て、華子さんは面白そうにコロコロと笑っていた。

 こうしてただ笑ってるだけでも、その姿はまるでこの場に一輪の花が咲いたように可憐で美しく、やはり華子さんは特別な存在なのだという事を実感する。


 これは、親バカならぬ彼氏バカってやつなのだろうかと思って少し恥ずかしくなるけれど、周りに目を向けると他のお客さん達も微笑む華子さんに見惚れてしまっており、やっぱりそんなこと無いよなと安心した。



 ◇



「これ! どうしてもまた食べたかったの!」

「そっか、じゃあ食べよっか」


 席へ座りメニュー表を開くなり、華子さんは嬉しそうにこの間食べたパフェを指差して微笑む。


 そんな無邪気な姿に、あーもう本当に可愛いなぁと思いながらも俺は、店員さんにそのパフェと飲み物を注文した。


 店員さんも、そんな華子さんの事を優しく微笑みながら見つめており、俺に小声で「ちょっとサービスしときますね」と言って去っていった。



「ねぇ、太郎くん」

「どうした?」


 注文を終えた華子さんは、隣に座る俺の手の上に自分の手を重ねる。

 それから何も言わず、少し頬を赤く染めながら俺達はその指と指を絡ませ合った。


 絡み合う華子さんの手からは、自分より少しだけ高い体温が伝わってくる。

 俺はその伝わる温もりに、何とも言えない安らぎみたいなものを感じる――。



「お待たせいたしまし―――あら」


 すると、早速注文したパフェとドリンクを持ってきた店員さんは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら「ごゆっくり」と言って去っていった。


 置かれたパフェには、ただでさえ凄いパフェなのに、一口サイズのケーキが上に刺されていた。


 サービスするとは言ってくれたけど、結構ワイルドなサービスだな……。


「なんだか前より凄くなってるね」

「そ、そうだね」

「でも、どうしよう太郎くん……」

「ん? どうした?」


 急に困った表情を浮かべる華子さん。



「食べるのが勿体無いわ」


 そして、やっぱりお決まりのセリフを言うのと共に、パフェを前に少し困った表情を浮かべる華子さん。

 だから俺は、そんな華子さんに向かって優しく話しかける。



「大丈夫、また食べに来たらいいさ。それよりも、早く食べないとアイスが溶けちゃうよ?」


 そう伝えると、華子さんは「それもそうね!」と満面の笑みを浮かべながら美味しそうにパフェを食べ始めた。


 この下り、何だか毎回やってる気がするけど可愛いからまぁいっかと、俺は美味しそうにパフェを食べる華子さんの姿を隣で楽しむ事にした。



「はい、じゃあ太郎くんもアーン」

「え? ア、アーン」


 言われたまま俺はアーンと口を開くと、華子さんは俺の口の中へパフェを掬ったスプーンをすっと入れてきた。



「あ、美味しいね」


 口の中に、冷たくて甘いアイスの味が広がる。

 俺は素直に味の感想を伝えると、華子さんは少し頬を赤くしながら手に持つスプーンをじっと見ていた。



「懐かしいね」

「あぁ……そうだね……」


 一瞬何の事だろうと思ったが、それは初めてここへきた時、俺が華子さんと間接キスすると勘違いしてしまった事だろうとすぐに分かった。


 あれから俺達は、本当に色々あった。

 まさか華子さんと付き合うだなんてあの頃の自分は思いもしなかったし、そして今ではこんな風に同じスプーンでパフェを分け合う程距離が近付いている事が、俺は改めて嬉しかった。


 それはどうやら華子さんも同じ気持ちなようで、少し恥ずかしそうに微笑んでくれていた。


 そして、再びそのスプーンで一口パフェを食べた華子さんは、またパフェをスプーンで掬う。



「……太郎くん、まだ食べるよね?」



 スプーンを持ちながら、恥ずかしそうにそんな事を聞いてくる華子さんの姿は、今日も今日とて反則級に可愛いのであった――。

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