40話「バッタリ」

 それから俺達は、テスト勉強に没頭した。

 窓の外を見ると、既に日が暮れていた。


 時計を見ると、十九時を少し回ったところだった。


 俺は一回伸びをすると、それに連鎖して2人も勉強を一区切りつけた。


 こうしてそろそろ終わろうかという空気になった所で、隣を通りかかった一団から声がかけられた。


「山田くんまだ居たんだ! てか、え? すっごい美人さん連れてるけど、何? どういうこと!?」


 丁度店を出ようとする西園寺さんに見付かってしまった。

 何、と言われても友達としか答えようもないのだけど、どうしたものか。


 山田さんと田中さんは、この人誰という感じで俺と西園寺さんを交互に見ていた。


「うわ! 本当だ美人すぎ!」

「何? 芸能人!?」


 西園寺さんのお友達の女の子二人も、山田さんと田中さんに驚いていた。


 しかし、西園寺さん達が連れている三人の男子達は、露骨に不機嫌そうにしていた。


 山田さんと田中さんをチラチラと見ながら、俺へ不愉快な視線を飛ばしてくる。

 言いたい事は分かる、なんでこんな奴がこんな女性連れてるんだと言いたいのだろう。

 気持ちはすごく分かる。


 でも、そんなのは彼らには関係の無いことだから、出来れば早く立ち去って欲しかった。

 そんな事を思いながら、俺は西園寺さんの質問に答えた。


「あー、その、同じクラスの友達的な」

「そうなんだ、へぇ……。てか山田くんのクラスの顔面偏差値どうなってんのよ」


 俺の歯切れの悪い答えに、西園寺さんは笑っていた。

 顔面偏差値か、確かにうちのクラスはこの二人のおかげで跳ね上がっているな。


「へぇ、彼氏じゃないならさ、君めっちゃ可愛いし連絡先交換しようよ?」


 西園寺さんの取り巻きの中から、一番チャラそうな奴が山田さんに向かって声をかけてきた。

 彼は、まるで男性アイドルグループにいそうな、陽キャのイケメンここにありといった感じだった。


「しないよ」

「え? いや、そう言わずにさ」

「知らないもの」

「だからこれからお互い知ってこうって事でさ」

「必要ないよ」


 だが、当然そんな奴が相手でも全く相手にしないのが山田さんである。

 いつもの無関心モードで完全に拒否した。


 バッサリ拒否された男は自分に相当自信があったのだろう、驚いた顔をしたあと露骨にイライラし出した。


「健児、その辺にして」


 そんな彼を、西園寺さんは一言嗜めた。

 西園寺さんにそう言われた彼は、これ以上何か言う事はなく渋々引き下がってくれた。


「感じ悪かったよね、ごめんね! じゃ私達行くから! バイバイ!」


 そうして、西園寺さん一行はファミレスから出ていった。



「すっごいチャラそうだったねぇー、私あーいうのちょっと苦手だなぁ」

「ごめんね、まさか話しかけられるとは思わなかったよ」


 緊張から解放されると、田中さんは机にぐでーっとしながらそう呟いた。


「太郎くんは、今の子と知り合い?」

「あー、うん。同じ中学だったんだ。でも、自分で言うのもなんだけど、これだけ変わった今の俺になんで気付いたのか不思議なんだよね。特に話したこともなかったのに」

「そうなんだ」


 俺の返事を聞くと、山田さんはちょっと考えるような素振りをしたものの、もう興味を失ったのかこの話しは終わりになった。


 そして、俺達もそろそろ帰ろうという事でファミレスを出た。



 ◇



 田中さんと駅でバイバイして、俺と山田さんは一緒に電車に乗り、そして最寄り駅で降りた。


「太郎くん、今日はありがとね」

「ん? いや、俺の方こそありがとうだよ」

「フフ、なにそれ。……私ね、ちょっと憧れてたんだ、こうしてお友達と放課後寄り道するの」


 そう楽しそうに話す山田さんを見て、俺は確かにと思った。

 以前、二人でカフェに寄った時も楽しそうにしていたけれど、山田さんはこれまで友達と遊ぶとかそういう経験がほとんど無かったのだろう。


 それは俺も同じだから、その気持ちはよく分かった。


「そうだね、また行こう」

「うん!」


 ニコリと微笑んだ山田さんは、「じゃあ、またね太郎くん!」と手を振りながら弾む足取りでマンションへと帰って行った。


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