32話「転校生」~※田中視点
次の日も、私は朝から山田くんのところに勉強を聞きに行った。
昨日のあれは、山田くんじゃないって早く確認したかった。
そんな偶然重なるわけがないと気を取り直して、極力いつも通りの態度で話しかける。
けれど、山田くんの態度はまるで初めて話しかけた時のようにぎこちなかった。
それだけで、私は分かってしまった。
昨日のあれは、やっぱり山田くんだったんだなと。
それから私は、戸惑う気持ちを必死で隠しながらも早めに立ち去った。
「おはよー美咲! えーあんたまたあの陰キャと話してたのー?」
そんな私の気持ちも知らず、クラスの女の子が声をかけてくる。
「もう、人を見た目で判断したらダメだよ。山田くんは良い人だよ?」
「マジで美咲って優しいよね。あたしは無理だわー」
知らないよ。勝手にそのまま無理で居てくれたらいい。
だけど、これ以上山田くんの事を悪く言うのだけは止めて欲しかった。
「そうだぞ、山田くんが可哀想だろ?」
そんな私をフォローするように、樋山くんが話に割って入ってきてくれた。
人気者の樋山くんに突然話しかけられた女の子達は、素直に謝罪しながらこれ以上悪口を言う事は無くなった。
私はそれが嬉しかったし、それと同時に申し訳なかった。
下を向きながら、そんな色んな気持ちを堪える事で必死だった。
◇
朝のホームルーム、このクラスに転校生がやってきた。
山田華子さん。
それはまるで、私の好きな人の女性バージョンのような名前をしていた。
彼女はとても美しかった。
背も、ルックスも、あらゆるものが自分なんかより素敵な女の子だった。
そして私は、またしても嫌な予感がしてしまう。
山田太郎と山田華子。
ただ名前が似ているだけ。
それだけなのだが、その時私は二人に不安を覚えてしまった。
それは、それまで他人に興味を示さなかった山田くんが、驚いた顔をしながら山田さんの事を目で追っているのが分かったから。
そしてその予感は、またしても的中してしまう。
次の日から、山田くんと山田さんが話しているところを見かけるようになったからだ。
そして更に、私にとって不測の事態が起きる。
山田くんが、突然長かった髪をバッサリと切ってきたのだ。
私は驚きながらも、いつもと変わらないように平静を保ちながら朝の挨拶をした。
山田くんに向かって「イケメンになったね!」なんて、我ながら安っぽい言葉まで発してしまった。
そして山田くんと挨拶を終えると、私は無意識に「あーあ、これで皆にも知れちゃうな……」なんて声まで漏れてしまっていた。
◇
そして早速、放課後に問題が起きた。
同じクラスの茜が、山田くんと連絡先を交換しようとしているのだ。
私だってまだ知らないのに、茜はこの間まで山田くんの事を気持ち悪いって馬鹿にしてたくせにと、私の中で醜い感情が湧き上がってきてしまう。
「もう、ダメだよ茜、山田くん困ってるよ? そういうのは、もう少し打ち解けてから聞かないと」
気が付いたら、私は二人の間に入って止めていた。
私に止められた茜は、これまで山田くんの事を悪く言ってたのがバレたくないのか「あーね、ゴメンゴメン!」と言ってすぐに去って行った。
けれど、別に私に二人の仲を邪魔する資格なんて無かった。
とりあえず、山田くんは困っていたようだったから「大丈夫?」とだけ声をかけると、ほっとしたような顔付きで「大丈夫」と返してくれた。
私は気持ちを悟られたくなかったから、無理矢理笑顔を作って「なら良しっ!」と言ってそのまま山田くんを見送ったのだった。
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