33話「決意」~※田中視点

 そして、決定的だったのはそれから二日後の朝の出来事だった。


 朝、教室へ入るとクラスの男の子達がざわついていた。


 何事かな? と思い様子を伺うと、その中心には山田くんがいて、そして取り囲んでる男の子達に向かって山田さんが何やら怒っているようだった。


 山田さんもあんな顔するんだ、なんて私は訳も分からずその光景を眺めていた。


 すると、同じく眺めていたクラスの女の子達の話し声が聞こえてくる。


 どうやら、山田くんと山田さん、二人は昨日、一昨日と一緒に下校する仲にまで発展しているようだった。


 その話を聞いて、私の胸にチクッと針が刺さったような感覚がした。


 山田さんの一言で取り囲んでいた男の子達は居なくなり、そして優しい表情で挨拶をし合う二人の姿が目に入る。


 ――それは、私の役目だったのに……。


 なんて、勝手に思っているだけなのは分かりつつも、私は山田さんに対して酷い嫉妬をしてしまっていた……。



 ◇



 それからの私は、我ながら本当にみっともなかった。


 山田くんに話しかけては、見苦しくも気を引こうとしたのだ。

 このまま山田くんを山田さんの元に向かわせたくないなんて思いながら。


 でも、山田くんは私の誘いを断って、山田さんと約束があるからとキッパリ断って去って行ってしまった。


 そうだよね、山田くんはそういう人だった。

 だから私は、好きになったんだ……。



 こんな状況になって、私はやっと自分の過ちに気付いた。

 どうしてもっと早く、自分からアプローチしなかったのか。

 もし、山田さんが現れる前に気持ちを伝えられていれば、もしかしたら今頃は違った形になっていたかもしれないと。


 樋山くんは、後悔したくないから私に気持ちを伝えてくれた。

 けれど私は、山田くんなら大丈夫だなんて楽観視していたのだ。

 自分を隠しながら、目立たないように振る舞う山田くんには、自分しかいないだなんて思い上がりながら……。


 何から何までダメダメな自分が本当嫌になった。



 ◇



 金曜日になった。


 私は相変わらず中途半端だった。

 だけどそれでも、山田くんと話をしたかった私は今日も山田くんの元を訪れる。


 でも、いよいよ山田くんにも見透かされてしまった。


「……あの、さ、田中さん、なんか無理してない?」

「え……?」


 私は頭が真っ白になった。

 目の前では、山田くんが心配そうな顔をしながら私の事を見ていた。


「……大丈夫だよ、何もないよ」

「そっか、何か俺に出来る事があったら、力になれるか分からないけど言って欲しい」


 なんとか返事をする私を、本気で心配してくれる山田くん。

 それが嬉しくて、悲しくて、私の心は様々な感情で一杯になってしまった。


「……うん、ありがとね」


 私はそう一言告げると、山田くんの元から離れた。

 こんな状態で、山田くんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかなかったから……。



 それから私はずっと考えた。

 これから私はどうするべきなのかを。


 結果、何も答えは出なかった。

 でもだからこそ、私は吹っ切れた。



 どうしていいのか分からないなら、まずはこんな情けない自分からちゃんと卒業しようと。


 全部自業自得だ。

 だったらもう、当たって砕けよう。



 こうして私は、これまでの自分から生まれ変わる決意をした。


 そう決意した私は、自分の両頬をパチンと一度叩いて気合いを入れる。


 よし! 大丈夫! やれる!


 そしてまずは、これまで中途半端にしていた事に対して、しっかりとけじめをつける事から始める。



「樋山くん、放課後話があるの」



 こうして放課後、私は樋山くんに謝罪すると共に告白を断ったのであった。

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