31話「告白」~※田中視点
なんで樋山くんが?
そう思いながらも、私は言われた通り放課後の教室に残っていた。
そして教室内には、私と樋山くんだけになった。
樋山くんは席から立ち上がると、私の元へとやってきた。
真剣な樋山くんの表情を見て、思わず私も立ち上がってしまう。
「田中さん、実は前から君の事が好きでした。その……良かったら、付き合って下さい!」
樋山くんからの突然の告白に、私は頭が真っ白になった。
これまでそんなに話をした事も無かった樋山くんに、突然告白をされてしまったのだ。
樋山くんは女子からとても人気のある男の子だ。
私から見ても、とても格好良いと思う。
だからそんな樋山くんが、私なんかに告白してくるなんて思いもしなかった。
「えっと……私達、まだそんなに話した事無いよね?」
「うん……その、最初は一目惚れだったんだ。けど、それから田中さんを見ていると、明るくて優しい人だなって事が分かった。だからこそ、僕は君の事が好きになってしまったんだ」
自覚はないけど、私を褒めるその言葉は素直に嬉しかった。
けれど、私が好きなのは山田くんであり、樋山くんではなかった。
「……もしかして、山田くんの事、かな?」
「え?」
「見てれば分かるよ。田中さんと山田くん、最近とても仲良いから。だから僕は、このままだと田中さんを取られてしまうって思って、突然だったかもしれないけど今日君に告白したんだ。後悔だけはしたくないって思ってさ」
樋山くんは、素直に理由を語ってくれた。
どうやら樋山くんには、私の気持ちが既にバレてしまっていたようだ。
後悔だけはしたくない――か。
そこまで考えて、こんな私なんかに告白してくれた樋山くんの気持ちが嬉しかったし、だからこそそんな樋山くんの告白を断ってしまっていいのかという気持ちがどんどん湧いてきてしまう。
……もし山田くんと知り合わなければ、私はこの告白を受け入れられたのかな?
でも、今私が好きなのは山田くん。だけど、樋山くんの気持ちも嬉しくて……
「少し、時間を貰える……かな?」
結果、私は逃げた。
問題を先送りにしてしまったのだ。
樋山くんは、少し困ったような悲しいような顔をしながら「分かった、返事を待ってる」と言って立ち去ろうとした。
樋山くんをそんな顔にしてしまったのは、私が中途半端な答えをしてしまったせいだ。
樋山くんは勇気を出して告白してくれたのに、私はその告白を不誠実にはぐらかしてしまったのだ。
その事に気付いた私は、身体が勝手に動いていた。
「ひ、樋山くんちょっとまって!」
私は思わず、手を伸ばしながら一歩踏み出して、樋山くんを止めようとしていた。
けれど慌てたその足は机と絡まってしまい、転んでしまいそうになってしまう。
「だ、大丈夫!?」
そんなドジな私を、樋山くんは支えてくれた。
「あ、ありがとう」
「いや、怪我がなくて良かったよ。……ごめんね、田中さんを困らせるような事してさ。すぐに答えを出せないのは分かってるから、この場の勢いなんかじゃなくて、ちゃんと田中さんの気持ちを整理した上で改めて答えを聞かせて欲しい」
その樋山くんの言葉で、私はやっと冷静になれたと思う。
今私が樋山くんに言おうとした言葉は、イエスでもノーでも樋山くんに対してきっと不誠実だった。
しかしそんな時、入り口の方からガタッと音がし聞こえた。
その音に反応して咄嗟に振り返ったけれど、そこには誰も居なかった。
けれど、誰かが走り去っていく足音は微かに聞こえてきた。
「……もしかして、不味いとこ見られちゃったかな」
樋山くんのその言葉で、私ははっとした。
今、私は樋山くんに身を寄せながら手を取られている状態だという事に。
私は慌てて樋山くんから離れて改めてお礼を言うと、樋山くんは部活があるからと言ってそのまま教室から出ていってしまった。
残された私は、今起きた出来事に呆然とした。
そして私の中で、一つの嫌な予感がした。
――もし今のが、山田くんだったらどうしよう……。
ふと気になって山田くんの机に目を向けると、そこには山田くんのお弁当ケースがぶら下げられたままなのであった――。
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