30話「後悔」~※田中視点
私には、好きな人がいる。
彼は、クラスでは全く目立たない存在だけど、学年テストではいつも一位を取っているちょっと不思議な男の子だった。
周りの女の子達はそんな彼の事なんて全く気に止めていなくて、なんなら彼を気持ち悪がる声がたまに聞こえてきた。
なんで皆、よく知りもしない相手の事を、そんな風に悪く言うんだろう?
彼への悪口を聞く度、私はいつもそんな事を思っていた。
だから私は、そんな彼はどんな人なのか気になって話しかけてみた。
学年で一番頭が良い彼に、丁度数学で分からない所があったから聞いてみる事にしたのだ。
そしたら彼は、急に現れた私に最初は戸惑いながらも、とても分かりやすく教えてくれた。
やっぱり、皆が言うような悪い人なんかじゃなかった事に私は満足した。
少し人より引っ込み思案なだけで、内面はとても優しい人だったのだ。
そんな彼の名前は、山田太郎くん。
彼がこうなったのは、きっとその名前のせいもあるんだろうなって事はなんとなく分かった。
それから私は、時々彼の元を訪れては勉強を教えて貰うようになった。
いつ話しかけても快く教えてくれる彼は、本当に優しい人だなって思った。
そんなある日、彼は普段顔を覆ってる髪が邪魔だったのか、ノートを見つめながら珍しく髪を掻き分けた事があった。
その時初めて彼の素顔をちゃんと見た私は、とても驚いたのを今でもよく覚えている。
山田くんは、髪で覆う必要なんて無い程、テレビで見る俳優と見間違えてしまうような整った顔立ちをしていたのだ。
それからの私は、どんどん彼の事が気になるようになった。
それと同時に、彼の素顔が皆には知られたくないななんて、独占欲みたいなものまで湧いてしまっていた。
朝と帰りの挨拶、それから一日一回は彼の元を訪れる理由を見つけては話しかけに行った。
段々彼も私に慣れてきたようで、時々笑いながら話をしてくれる事がとても嬉しかった。
この時、既に私は彼の事が好きになっていたんだと思う。
でも私は、その気持ちを彼に伝えるなんて事は出来なかった。
断られるのが怖かったのだ。
だからずるい私が取った行動は、彼に私の事を好きになって貰う事だった。
今思えば、それが全ての過ちだったと思う。
あの時、私から素直に気持ちを伝えてさえいれば結果は違ったんじゃないかって、そんな後悔ばかり湧き上がってくる。
けれど、そんなものはただの後の祭りでしかなかった。
そして、問題のあの日がやってきてしまう。
「田中さん、放課後ちょっといいかな」
そう私を呼び出したのは、山田くんではなく、同じクラスの樋山くんだった。
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