23話「公園」

 カフェを出た俺達は、駅から見て商店街のある通りと反対側にある公園へとやってきた。


 この街は、商店街のある側は商業施設が建ち並び栄えているが、反対側は静かな住宅街となっている。


 住む分には何も不自由ないし、俺は都会過ぎず過ごしやすいこの街が昔から好きだった。


 住宅街の中にあるこの公園は敷地面積がかなり広く、また木々が生い茂っており、この街で唯一自然を感じられる場所になっている。

 俺はここには小さい頃からよく遊びに来ていたし、今でもたまに立ち寄る程お気に入りの場所だから、山田さんにも紹介したくて今日連れてきてしまった。


「こんな所があったんだね」

「うん、ここだけは昔から変わらないね」


 山田さんは、木陰で涼しそうに伸びをしながら隣を歩いていた。

 さっきのカフェでの件はもうすっかり忘れたようで、今はまたご機嫌な様子で微笑んでいた。


 そんな山田さんを見ていたら、俺も一先ずは気にしないようにしようと思えた。

 とりあえず、今はこの時間を楽しむのが一番だから。


「ねぇ太郎くん! 見て! 大きい鯉が沢山いるわ!」


 公園の中にある池を泳ぐ鯉を見て、山田さんは指差しながら子供のようにはしゃいでいた。


 そんなに物珍しいかなと思いつつも、俺も山田さんの隣に並んで一緒に鯉を眺めた。

 よくよく見ると、そこには確かに色とりどりの鯉が泳いでおり、周囲の雰囲気と相まって中々に綺麗だった。


 こういう、普段は全然気にしなかった事も山田さんと一緒にいると見え方が変わる事に、俺は新鮮な気持ちになると共になんだかほっこりとした気分になった。



 それから自販機で買った飲み物を片手に、公園の広場にあるベンチで休憩する事にした。


 時間はまだ午後二時を回った頃。

 日は高く、ベンチに射す木漏れ日が心地よかった。


「風が気持ちいい」

「そうだね」


 そよ風を受けて、気持ち良さそうに瞳を閉じる山田さん。

 綺麗な金髪が風に揺れて、シャンプーの良い香りが香ってくる。


「素敵な場所ね」

「気に入って貰えたなら良かったよ」

「うん、全部太郎くんのおかげだね」


 ロケーションのせいだろうか。

 もう何度も見ているはずなのに、微笑みかけてくれる山田さんの姿はいつにも増して美しく、俺は思わずその姿に見惚れてしまった。


「どうかした?」

「あ、いや! な、なんでもないよ!」

「フフ、変なの」


 しまった! 見惚れていることがバレたと想い慌てて取り繕う俺を見て、山田さんは楽しそうにコロコロと笑った。


 これ以上顔を見られるのが恥ずかしくなった俺は、咄嗟に山田さんから顔を逸らしてしまった。


「太郎くん、照れてるのかな?」

「そ、そうだよ……」

「そっか、フフ、太郎くんは可愛いね」


 そう言いながら、山田さんはいきなり俺の頭を撫で出した。


「え?ちょ!? 華子さん!?」

「いい子いい子」

「あ、あの……これ、凄く恥ずかしいんですけど……」

「もうちょっと。いい子いい子」


 こうして、何故か俺はしばらく山田さんに頭を撫でられ続けた。


 その間、山田さんの手から伝わる温もりに、俺はドキドキしっぱなしだった。


 撫でられながらチラッと様子を伺うと、頭を撫でる山田さんの頬も、うっすらとピンク色に染まっているのが見えた。


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