21話「パンケーキと勘違い」

 注文したパンケーキが届けられる。


 見るからにフワフワのパンケーキの上に、これでもかってぐらい盛られた生クリームは、成る程確かにこれは女の子が好きそうだなと納得した。


 前の席に座った山田さんはというと、パンケーキを見て子供のように目を輝かせていた。


「ねぇ太郎くん! 凄いよ! 山盛り!」

「う、うん、そうだね。山盛りだね」


 そうして、山田さんはパァっとその瞳を輝かせたかと思うと、急にションボリとした顔つきに変わってしまった。


「……どうしよう、太郎くん」

「ん? どうかした?」

「……食べるのが、勿体無いなって」


 あぁ、成る程ね。

 このやり取り、この間もした気がする。

 だから俺は、またあの言葉を口にする。


「でもほら、せっかくこれだけ盛られた生クリームが勿体無いよ。また食べに来たらいいさ」

「……それもそうね! 頂きます!」


 そう言うと、山田さんは再び目をキラキラさせながら、美味しそうにパンケーキを食べだした。


 こういう子供っぽいところが、見た目とのギャップが凄くて余計に可愛らしかった。


 そんな今日も全力で可愛らしい山田さんを堪能したところで、俺も一口パンケーキを食べてみる。

 すると、生地は見た目通りフワフワな食感で、そこにバターの風味と生クリームの甘さ、それからアクセントに散りばめられたアーモンドの食感が良い感じに合わさって、思った以上に美味しかった。


 というか、めちゃくちゃ美味いなこれ!


 俺はあまりの美味しさに直ぐ様二口目に手を伸ばすと、前に座る山田さんと目が合った。


「太郎くん、美味しい?」

「え? いや、その……はい、美味しいです」

「フフ、太郎くん可愛い」


 しまった、食べるのに夢中になって山田さんに見られていた事に全く気付かなかった……。

 そんな恥ずかしがる俺を見て、山田さんは楽しそうにコロコロと笑った。


 まぁあれだな、このパンケーキには人を子供に巻き戻す魔法がかけられてるんだという事にしておこう。


 こんなに美味しいパンケーキが、全部悪いに違いない。



 ◇



 パンケーキを食べ終えると、もうちょっとこのお店でゆっくりしていく事にした。

 俺はコーヒーは朝飲んだからアイスティーを、山田さんはホットミルクティーを注文した。


「華子さんは、午後行きたい所とかあるかな? なんかこの機会に買っておきたいものとか」

「んー、そうね。なんでもいい?」

「ん? うん、大丈夫だよ?」

「じゃあ、これから夏になるし水着が見たいわ!」

「ぶぇ!? み、水着!?」


 まさかの返事に、俺は飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになり変な声が出てしまった。

 なんでも良いとは言ったけれど、水着は想定外すぎた。


「フフ、フフフ、嘘、冗談だよ。フフ」


 そんな慌てふためく俺を見て、堪えきれなくなった山田さんが笑い出した。


 なんだ嘘か、ビックリした……。


 そりゃそうだ、山田さんが俺と一緒に水着だなんて……


 水着だなんて……


 ……うーん、山田さんの白い肌とさらさらの金髪には、黒が似合いそうだな……。


 って違うだろ俺!

 本人を目の前に妄想してたら不味いだろ!


 しっかりしろ! 俺!


 と一人また妄想しつつ勝手に狼狽えていると、またしても山田さんに笑われてしまった。


 まぁ、こうして笑っている山田さんを見れるのは、俺としても楽しんでくれてる事が伝わって嬉しかったから、さっきの嘘は水に流す事にした。


 それにしても、山田さんがまさか嘘をつくだなんて思いもしなかった。

 それもこれも、俺と山田さんの距離が縮まってきてるが故だと思うと、それもまた嬉しかった。



 ◇



「……は?」


 山田さんとこれから行く場所について話していると、席の隣を通りかかった人が立ち止まる。


「……え? 何? どういうこと?」


 そしていきなりそんな言葉を向けてくるのだが、その声は俺のよく知ってる声だった。

 どういうことってどういうことだ? と思いながら顔を上げると、そこにはやっぱり妹の千聖が立っていた。


 どうやら千聖は、友達と二人で来ているようだった。

 訳が分からず後ろで戸惑っている友達を無視して、千聖は俺達の事を信じられないものを見るかのような目でじっと見つめてきた。


「何って、言ったろ。今日は出かけるって」

「うん、それは知ってる」

「ならなんだ?」


 そう言って、俺は今取り込んでるんだと山田さんの方を向く。

 山田さんは、突然の出来事に戸惑った様子で、少し青ざめた顔をしながら気まずそうに俺と千聖を交互に見ていた。


 そして、




「太郎くん……もしかして、彼女?」




 どうやら山田さんは、とんでもない勘違いをしてしまっていたようだ。


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