20話「駅前商店街」
カフェを出ると、まずは駅前の商店街へ向かった。
この商店街はこの街で一番賑わっており、ここなら服から雑貨まで一通りのものが揃えられるため一番に紹介したかったのだ。
まぁ、とは言っても山田さんの家からすぐだし、もう既に一通り見てはいるだろうから、その上でオススメしたいお店をいくつか案内する事にした。
「ここの八百屋さん、駅前のスーパーより野菜安いので有名なんだよ」
「へぇ、そうなんだ、本当だ安い。それに、お野菜も元気ね!」
山田さんは、店先に並べられたトマトをしゃがんで楽しそうに眺めていた。
普段から料理をするだけあって、野菜の良し悪しも分かるのだろう。
「お、嬢ちゃん分かるかい? うちの野菜は農家直送だから、鮮度が良い上に値段も抑えられるってわけさ!」
「うん! 今度から買いに来るね!」
そんな山田さんに、八百屋の親父さんが嬉しそうに話しかけてきた。
「そうかい! そいつぁありがてぇ! それにしても嬢ちゃん凄いベッピンさんだな! ほれっ! その可愛さとお近づきのお礼に貰ってくれ! 彼氏もほらっ!」
そう言いながら、八百屋の親父さんは店先に置いていたミカンを1つずつ投げ渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう!」
お礼を伝えると、オジサンは「良いってことよ!」と手を降って仕事へと戻って行った。
「ありがとう、早速素敵なお店を知る事が出来たわ!」
「うん、好い人だったね。俺もお使い頼まれた時は、ここまで来ようかな」
それから、俺達は貰ったミカンを食べながら商店街を歩いた。
季節外れのミカンだったけれど、甘酸っぱくてとても美味しかった。
それにしても、さっき親父さんが俺の事を彼氏って言ってたけど、今俺達は周りから見たらそんな風に見えるのかなぁ……なんて、俺はまた一人勝手にドキドキしてしまうのであった。
◇
商店街を歩いていると、山田さんはとある店の前で立ち止まると、そのまま店先に置いてる商品に目が奪われていた。
「どうかした?」
「うん、可愛いなって」
山田さんが見ていたのは、色とりどりの天然石で出来たブレスレットだった。
やっぱり山田さんも女の子だな、こういうオシャレな装飾品も気になるようだ。
そんな山田さんの姿を改めて見ると、左手にはピンクのベルトの可愛らしい腕時計、そして右手には白色のブレスレットをしていた。
こういう小物にまで気を遣ってるからこそ、今日の山田さんの魅力がより引き立てられているのだろう。
俺も、母親や妹に服を選んで貰うんじゃなくて、これからは自分でお洒落できるようにならなくちゃなと思った。
山田さんは、沢山並べられているブレスレットの中から、ターコイズブルーのブレスレットを1つ手に取ると「これ可愛い……」と嬉しそうに眺めていた。
「あ、ごめんね! 行こっ!」
だが、見るだけで満足したのか、ブレスレットを戻すと山田さんはすくっと立ち上がり、再び俺の隣に並んで楽しそうに歩き出した。
まだ十時を少し回ったところなため、商店街が開いて間もない時間帯なのもあってそれほど道行く人は多くはなかった。
それでも、すれ違う人達、更にはお店の店員さんまでもが俺達の事を二度見、三度見してきているのが分かった。
まぁそれは無理もなかった。
ただでさえ絶世の美少女である山田さんが、今日は私服でとびきりのお洒落をして歩いているのだ。
隣にいる俺だってまだ直視出来ない程、今の山田さんはこの商店街で一人だけまるで別世界の存在のようだった。
今日はヒールの高い靴を履いているため、いつも以上にスラリと長い足が一際目立っており、最早そこいらのモデルでも太刀打ちできないような美しさがそこにはあった。
「どうかした?」
「い、いや、なんでもないです」
「そう? あっ! 今日はヒール履いてるから、なんだか太郎くんの顔が近いね!」
なんてこっちを向いて無邪気に微笑む山田さんは、そうやってまた無自覚に俺をドキドキさせるのであった。
◇
それから俺達は、商店街を一通り見て回った。
時計を見ると、あっという間に十一時半を回っていたため、良い時間になってきたので商店街から一本入ったところにあるカフェへと向かう事にした。
そこはパンケーキで有名なお店らしく、妹に教えて貰ったオススメのお店の内の一つだった。
この間、山田さんは可愛らしいパフェを嬉しそうに食べていたから、こういうパンケーキも好きなんじゃないかな? と思って選んだのが、このお店だ。
俺達はそのまま入店して、それから渡されたメニューを眺めた。
店内は西海岸風の内装をしており、この前行ったカフェとはまた違ったお洒落さがあった。
周りは、女子大生っぽいグループやお洒落な若い男女で席のほとんど埋まっており、妹の言う通りここが人気店だという事は見てすぐ分かった。
そして、こんなお洒落な所に自分が居るのがちょっと信じられなかった。
「素敵なお店ね、太郎くんよく来るの?」
「いや、正直に言うと、ここは妹に紹介されたんだ。色々紹介された中から、ここなら華子さんも好きそうだなと思って選んだんだけど……」
「そっか、うん、気に入ったよありがとう」
そう正直に答えると、山田さんは真っ直ぐ俺の方を見つめながら、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます