17話「妹」

 晩御飯を食べ終え、リビングでテレビを見ていた。

 テレビに映るバラエティー番組では、オススメのスイーツ屋さんに芸能人が食べに行く企画がやっていた。


「あー、これ美味しそう……」


 そんなテレビに映るパンケーキを見て、千聖が誰に言うわけでもなくぼやいていた。


 千聖は今、中学三年生だ。

 中三にもなれば、こういう所謂SNS映えするスイーツなんかを食べたいお年頃なのだろう。


 週末になれば、よく友達とショッピングやカフェに出掛けているぐらい、兄には似ず陽キャな妹なのだ。


 ……ん? 待てよ?

 だったら、この辺のオススメは妹に聞いたら良くないか?


 灯台もと暗しとは、まさにこの事だろう。

 それに気付いた俺は、アイスをチューチューしながらスイーツを食べたがっている甘党な妹に話しかけた。


「なぁ、千聖はこの辺のこういうお店に詳しいのか?」

「え? 何いきなり? 怖いんだけど」


 普段ほとんど会話をしない俺から急に話しかけた事で、千聖は驚きながら悪態をついた。


 いつからか分からないが、妹は俺に対してキツく当たるようになった。

 昔はよく懐いてくれていたんだが、これも思春期というやつなのだろう。


 無個性陰キャとして生きてきた俺には、思春期という思春期はあったのかどうかも分からないけど。


「ちょっと知り合いと用事があるから、オススメとかあったら教えて欲しいんだけど……」

「何? もしかして兄貴彼女でも出来たの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」

「知ってる。兄貴に彼女なんて出来るわけないでしょ。最近はちょっとアレだけど……さ……」


 最後ごにょごにょ言ってて分からなかったが、千聖は俺に彼女が居ない事を確認すると、ですよね知ってましたという態度で少し上機嫌になった。


 これは完全に俺のこと見下して馬鹿にしてるな……。

 まぁいい、俺は必要な情報さえ知れればそれでいいんだ。

 俺は気にしてない素振りで話を続けた。


「いや、彼女じゃないんだけど、正直に言うと週末女の子と二人で出掛ける事になったんだよ。でもどこ行けば良いのか、お察しの通り全く分からないってわけだ」

「は? えっ!?」


 俺はもう、家族が相手なんだし腹を割って話した。

 週末山田さんと出掛ける約束をしているから、お店を知りたいんだと。


 しかし、これまで散々馬鹿にしていた兄の浮わついた話に、千聖はとても驚いていた。

 まるでこの世のものじゃないものを見るような、それは綺麗な驚きっぷりである。


「その人の事、好きなの?」

「んー、どうだろ。良い子だなとは思ってるけど、そもそも俺なんかじゃ不釣り合いだから、やっぱり友達かな」

「ふーん、友達ね」


 千聖は、ほっとしたかと思えば、また何かに気が付いて慌て出したり、色々考えながら百面相を浮かべていた。

 こいつ、いつもはクール系だと思ってたけど、こんなに表情豊かだったんだな。


「まぁ、事情は分かったわ! あとでこの辺の良いお店のリンク送ってあげるから、好きなお店選んだらいいよ。ただし! 何処へ行くかと、何時頃行くかは連絡して。ほら、兄貴は素人だから、段取りってもんがあるでしょ」

「あ、あぁ、分かったよ。ありがとう」

「別にいいよ」


 良かった。

 なんか色んな事考えてたようだけど、無事ちゃんと教えてくれるようだ。

 身近に陽キャな妹が居てくれて、本当に助かった。


「そういう千聖は、もう彼氏いるのか?」

「は? 居るわけないじゃん。クラスの男子なんて、皆子供っぽいんだもん」

「そ、そうか」


 ちょっと踏み込んだ質問をしてみたが、どうやら千聖にはまだ彼氏は居ないようだ。


 黒髪のショートヘアーに、ちょっとつり目だけどそれがまた小動物的な愛らしさを感じさせる整った顔立ち。

 甘いものばかり食べてるのに無駄な肉は一切付いていないスレンダーな体型で、所属する陸上部ではそれなりの成績を納めている自慢の可愛い妹だ。


 そんな自慢の妹が普通にモテている事は知っていたが、千聖の方からお断りしてるんなら仕方ないか。

 妹に彼氏が居ない事を確認できて、正直ちょっとほっとした自分がいた。


「もういい? 部屋戻るよ」

「あぁ、ありがとな」


 そう言うと、千聖はちょっと不機嫌そうな表情を浮かべながら、足早に自分の部屋へと戻って行った。



 ◇



 その日の夜、千聖はちゃんとこの辺のオススメのお店をいくつも教えてくれた。

 俺は感謝の返事を送りつつ、山田さんが喜びそうなお店を探した。

 せっかくこの街へと引っ越してきてくれたのだから、楽しんで欲しかった。


「今度、どういう所に行きたいのか聞いておく必要もあるなぁ」


 そんな事をぼやきながらお店の情報を調べていると、この日は気が付いたら眠りについていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る