15話「2回目の下校」

 昼休み。


 山田さんはいつも通りお弁当片手に教室から出ていった。


 またあそこで弁当を食べるんだろうなと思いながらも、山田さんのあとをついてく真似はもう二度としないと誓っているため、俺も自分の席で弁当を食べる事にした。



「山田くん、少しいいかな?」



 俺が弁当を食べ終えると、まるでそれを待っていたかのように田中さんが声をかけてきた。


「え? あ、うん。どうしたの?」

「いや、その……山田くんって、山田さんと仲いいよね……?」

「う、うん」


 突然、俺と山田さんの仲を聞いてきた田中さん。

 なんでそんな事を聞いてくるんだろう?


「そ、そうだよね! 山田さん、まだクラスに馴染めてない感じしたけど、昨日は山田くん一緒に帰ってたみたいだからその、良かったなって!」


 あーなるほど。

 田中さん、実は山田さんがクラスに馴染めてない事を気にしていたのか。

 やっぱり田中さんは女神様だなぁとか思いながら、何となく視線を感じてそっちを振り向くと、そこには俺と田中さんの方をじっと見ている樋山くんの姿が合った。


 あ、これ不味いんじゃ……。

 彼氏の樋山くんからしたら、自分を差し置いて田中さんと俺が話してるのは気に食わない事ぐらい俺でも分かる。


「う、うん! そうだね、昨日は一緒に帰ったよ! 田中さんはやっぱり優しいね!」

「えっ? ……ううん、そんなことないよ」


 俺が田中さんを褒めると、何故か田中さんは少し俯いてしまった。


「ご、ごめん田中さん。ちょっとトイレ我慢出来ないから行ってくるね」

「え? う、うん、分かったよごめんね」


 田中さんが俯いた理由は分からなかったけれど、樋山くんからの視線が痛かったため俺は逃げるようにトイレへと駆け込んだ。



 ◇



 下校時間になった。

 それはつまり、今日もこれから山田さんと下校する時間がやってきたわけだ。


 でも、今日は昨日ほどの緊張は無かった。

 もう二日連続で一緒に帰ってるし、それから山田さんとカフェへ行き連絡先まで交換した事で、自分の中で少しだけだけど余裕のようなものが出来ているのが分かった。


 いや、余裕というよりこれは、自分の中で緊張より楽しみが勝っていると言った方がいいかもしれない。


 何故なら俺は今日一日、山田さんと一緒に帰れるこの時間を楽しみにしていたのだ。


 学年一の美少女と共に……いや、もうそういうのは違うな。

 見た目がどうこうじゃない、俺は山田さんと一緒に下校出来る事が純粋に楽しみなんだ。


 だから今日は、勇気を出して俺から山田さんに声をかけるべく、急いで帰り支度を済ませた。



「山田くん、ちょっといいかな?」



 山田さんの所へ向かうべく立ち上がろうとする俺に、昼休みに続いてまたしても田中さんから声をかけられた。


「あ、うん。なにかな?」

「いや、山田くんさえよければ、今から少し話出来ないかなって、ハハ」

「あ、ごめん。嬉しいんだけど、今日もその……これから山田さんと一緒に帰る約束してるんだ」


 何事かと思えば、なんとあの田中さんからちょっと話をしたいと誘ってきたのであった。

 でも、これから山田さんと一緒に下校する約束があるため、俺は申し訳ない気持ちで泣く泣く誘いを断った。


 というか、山田さんと下校する約束して田中さんにも誘われるとか、俺は一体どうしてしまったんだ? と今のありえない状況に少し目眩がしてきた。


「そ、そっか! 引き留めてゴメンね! じゃあうん、また今度ね!」

「あ、うん。また今度……」


 俺の言葉に、田中さんは一瞬驚いたような表情をしたけれど、それからすんなりと引き下がってくれた。

 こちらに手を振りながら、そのまま教室に残っている友達の元へと去っていってしまった。


 俺は田中さんに手を振り返しながら、なんだか今日一日田中さんのテンションがいつもと違っている事が気になった。


 浮き足立ってるというか、いつもの余裕が感じられない。


 もしかして、樋山くんと何かあったのかな? と思って樋山くんの席へと目をやると、樋山くんはバッグを持ってそのまま教室から出て行くところだった。


 それはまるで、俺と田中さんの成り行きを見届けていたかのようなタイミングだった。


 まぁ、彼氏なんだから彼女が俺なんかと話していたら気になるのは当然だと思う。

 ただ、樋山くんが教室から出るまで田中さんと一言も会話を交わさなかったのは、やっぱり二人の間に何かあったのかな? と少しだけ心配になった。


 まぁ、元々あの二人は教室ではそんなに会話していないから、俺の気にしすぎかと気を取り直したところで、不味い待たせちゃったかなと慌てて山田さんを探した。



 ――だがしかし、山田さんの姿は既に教室にはなかった。


 ヤバイ……痺れを切らして先に帰っちゃったかな?

 俺は慌てて教室から出たところで、制服のポケットに入れているスマホのバイブレーションが鳴った。


 あ、そうだった!

 昨日山田さんと連絡先交換したんだから、もしかしたら! と思ってスマホを確認すると、それはやっぱり山田さんからの通知だった。


『先に校門で待ってるね』


 良かった、山田さん待っててくれてるみたいだ。

 俺は慌てて返事をする。


『ごめん! 今から向かいます!』


 こうして俺は、これ以上山田さんを待たせるわけにはいかないと急いで校門へと向かった。


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