14話「騒然」
次の日登校すると、一斉にクラスの男子達に囲まれてしまった。
理由は勿論、昨日の山田さんとの事だろう。
これまでも、山田さんと挨拶し合ったりしてるところを疎まれていたのは分かっていたけれど、昨日の「山田さんと一緒に帰る」までは流石に看過できなかったようだ。
「お前、山田さんとどういう関係なんだ?」
一人の男子が、代表して聞いてくる。
俺は山田さんとどういう関係なのかと。
「どうって、友達だよ?」
「友達? だから2人きりで帰ったって?」
「う、うん」
そんな事言われても仕方ない。
だってそれが事実なのだから。
「付き合ってるんじゃ?」
「いやいや、俺なんかが山田さんと付き合えるわけないでしょ」
「まぁそれもそうか」
あ、そこはすんなり納得してくれるんですね。
ありがたいけどちょっと悲しいような……。
「だったら……おい、一体どんなテクニック使ったらそんな事になるんだ?」
テクニックって……。
まぁ、しいて言うなら名前かな。
なんて答えたところで、それは俺にしか適用されないし、不評を買うだけなのは分かっているから言わない。
「テクニックなんてないよ。以前困ってる山田さんの手助けをした事があるんだけど、それから少しずつ話すようになった、かな」
俺は正直に伝える。
山田さんが転校初日に、下駄箱で一人困っている山田さんを助けたのが、そもそもの知り合うキッカケだったのだから嘘はついていない。
「なるほどな、手助けか……」
あれ? この人なんか考え出したぞ。
てっきり俺の事を咎めに来てるのかと思ったが、どうやら彼らは俺が付き合ってるわけではないと分かったことで、だったらどうしたら自分も山田さんとお近づきになれるのかに興味が移っていった。
そんなこんなで、事情が分かったら皆興味を無くしたようで、人集りも解散の雰囲気が生まれてきたその時だった。
「い、いいか山田ぁ! 華様は皆の華様だから、気を付けろよ!」
突然人集りの後ろの方からそう叫んだのは、西田くんだった。
西田くんと言えば、山田さんファンクラブに属している内の一人だ。
ぽっちゃりした体型で、陰キャの俺が言うのもなんだが、オタクを絵に描いたようなルックスをしている。
普段は物静かな彼が、山田さんの事になるとこんなに声を上げたことに、俺だけでなく周りの男子達も驚いていた。
「違うよ、私は私だよ」
そんな西田くんの叫びに対して、一つの透き通った声が教室内に響いた。
その声に、西田くんは勿論、俺の席に集まっている男子達は全員青ざめる。
そして、全員声のする方を恐る恐る振り向くと、そこには丁度登校してきた山田さんの姿があった。
いくら普段マイペースで天然を感じさせる山田さんでも、この状況を見れば何が行われていたのかぐらいは察しがついたのだろう。
いつもの男子に対する無関心とは違い、その表情にははっきりと不愉快さが浮かび上がっていた。
「は、華様は山田となんなんですか!? 貴女は我々の希望なんですよ!」
「知らないよ。あと、華様はやめて」
引くに引けなくなった西田くんは、血迷った様子でターゲットを俺から山田さんに変えた。
自分達の希望だから、俺との距離を縮めすぎるなと。
なんとも自分勝手な話だ。
そんな西田くんに対して、山田さんは冷たい視線を向けると共に、しっかりと不愉快さが籠められた一言で西田くんを黙らせた。
誰が見ても分かる程、山田さんは静かに怒っていた。
こうして、これまで勝手に崇めてきた相手を怒らせてしまい、冷たい一瞥と共に言い捨てられてしまった西田くんは、まるでこの世の終わりかのような絶望と共に、小さく「ごめんなさい……」とだけ告げるとトボトボと自分の席へと戻って行った。
そんな西田くんの有り様を見て、他の男子達も同じ二の舞になりたくないとばかりに、それぞれ謝罪の言葉を述べると慌てて散っていった。
彼らは山田さんに好意を寄せてるのに、結果としてその山田さんを怒らせてしまったのだから笑えなかった。
「おはよう太郎くん」
「あ、うん。おはよう華子さん」
人集りが無くなると、山田さんはいつも通り俺と朝の挨拶を交わし、満足そうに自分の席へと向かって行った。
今結構な騒ぎだったような気がするけれど、山田さんは何事も無かったかのようにまたいつもの雰囲気に戻っていた。
いつもマイペースで、最近はニコニコしてる事の多い山田さんだけど、ちゃんと怒る時は怒るし、言いたい事はしっかり言うんだな。
クラスの男子達には悪いけど、そんな山田さんの新たな一面を見れたのは良かった。
そして何より、自分のためでもあるだろうけれど、俺のためにも怒ってくれた事がとにかく嬉しかった。
◇
朝からドタバタしてしまったけれど、担任の先生がやってきた所で無事今日も朝のホームルームが始まった。
ただ今日は、田中さんからの朝の挨拶が無かった事に、俺は少しだけ残念な気持ちになっていた。
別に毎朝挨拶をする義務もルールもないのだが、毎朝とっていたコミュニケーションが急に無くなると不安にもなる。
何かあったのかなと思いちらっと田中さんの方を見ると、田中さんも俺の事を見ていたのだろうか一瞬だけ目が合ったけれど、すぐに外されてしまった。
そんな田中さんは、一見いつも通りに見えるけど、寝不足だろうか少しだけゲッソリとした様子だった。
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