13話「連絡先」

「あ、ありがとうございました! 是非、また来てくださいね! これ、次回以降使える割引チケットですっ!!」


 日も沈みかけてきた時間になったため、俺達はカフェを出ることにした。

 お会計時、入店した時案内してくれたウエイトレスさんが少し慌てながら、俺と山田さんそれぞれに割引チケットをくれた。


 少し利用しただけなのに割引してくれるなんて、なんてサービスの良いお店なんだろう。


「良かったね、また来よっ!」

「う、うん。そうだね。」


 まぁ、山田さんはまたあのパフェを食べたいだろうし、また一緒に来れたらいいな。



 ◇



「じゃ、じゃあ行こうか」

「うん……」


 お店から出ると、なんだか一気に現実に戻された感覚というか、先ほどのカフェでのやり取りを思い出してしまい、急にまたドキドキしてきてしまった。

 それはどうやら山田さんも同じだったようで、少しうつむきつつ頬を赤らめながら小さく返事した。

 そんな仕草もまたとても愛らしく、更に俺をドキドキさせるには十分すぎた。


 電車に乗り、三駅先の駅で一緒に降りる。

 それから改札を出れば、そこはもう山田さんの家の前であるためここで解散となる。


「太郎くん、今日はありがとね」

「いや、こちらこそ」

「うん、じゃあ、また明日!」


 そう言うと、山田さんはクルリと背中を向けて自宅のあるマンションへ向かった。


「あ、あの! 華子さん!」


 だが俺は、山田さんに伝えたい事があったため、思いきって呼び止めた。

 それは、さっきのカフェで伝えておけば良かった話かもしれないが、あの状況は逆に気恥ずかしくて、中々踏み込めなかったのだ。


「どうしたの?」


 山田さんは、俺が呼び止めた事で再びこちらへと戻ってきてくれた。


 向かい合う俺と山田さん。

 もう呼び止めてしまったんだ、伝えるしかない。


「あの、無理ならいいんだけどさ……その、連絡先、聞いておいてもいいかな? ほ、ほら! これから用事とかあって一緒に帰れない時とか、連絡取り合えるといいかなーって! ハハ」


 俺は山田さんと、連絡先を交換したかったのだ。

 でも、陰キャな俺にとって女性の連絡先を聞くなんて行為は、あまりにもハードルが高く中々切り出せなかった。


 更には、相手はあの山田さんだ。

 山崎先輩でも一蹴されたような相手に、受け入れられる自信も保証も何もなかった。


 でもそのうえで、俺は思いきって連絡先を聞いた。


 それは、さっきカフェで山田さんが俺に話してくれたように、俺からも勇気を出して山田さんに近付く姿勢を見せたかったのと、何より初めて出来た異性の友達との繋がりをちゃんと作りたかったのだ。


 結果、俺は物凄く言い訳がましい言い方をしてしまい、全然スマートに伝える事が出来なかったけれど……。



「いいよ」



 あまりにも言い方が下手くそな俺を見てクスリと笑った山田さんは、微笑みながら二つ返事でオッケーしてくれた。

 そのまま鞄から自分のスマホを取り出すと、「はい」と自分のQRコードを表示してくれた。

 俺は慌ててそのQRコードを読み取ると、無事俺のスマホに山田さんのアカウントが表示された。


「大丈夫かな?」

「う、うん! ちゃんと登録出来たよありがとう!」

「うん、じゃあまた明日ね」

「うん、また明日」


 こうして、今度こそ本当に山田さんはマンションの中へと帰って行った。


 山田さんが見えなくなるのを見届けたあと、自宅へと向かいながらもう一度スマホの画面を見た。

 そこには、確かに山田さんのアカウントが表示されていた。


 今日俺がした事と言えば、山田さんと一緒に下校し、カフェへ行き、そして最後に連絡先まで交換してしまったのだ。

 我ながら、とんでもない成果を挙げてしまった事を改めて実感した。


 生まれ変わるとは言ったものの、変わりすぎだろ俺……と自分で自分にツッコミをいれた。



 スマホに表示された山田さんのアカウントのアイコンは、可愛い三毛猫の画像だった。

 山田さん、本当に猫が好きなんだなぁと思いながら、俺は今日一日の達成感と共に帰宅したのであった。

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