10話「一緒に下校」
教室へ戻ると、山田さんは何事も無かったように自席に座っていた。
そして何を見ているのかは分からないが、ずっと窓の向こうを眺めていた。
そんな山田さんの元へと、弁当を食べ終えた女子グループがやってきて声をかけた。
最初こそ、山田さんは男女共に全く寄せ付けない雰囲気があったのだが、最近では山田さんのそれは天然によるものだと周囲にも浸透してきており、徐々にではあるが女子同士の会話する場面は増えてきていた。
そして今日も、数人の女子に囲まれながら色々と質問攻めにあっている。
あれこれ聞かれる山田さんだが、決して面倒くさそうな態度は出さずに、聞かれた事に対してマイペースに一つ一つちゃんと返事をしていた。
良かった、山田さんもクラスの皆と上手くやれてきているようで安心した。
……なんて、多少外見が変わったところで、相変わらずクラスでボッチなままの俺が心配してるのも可笑しな話なんだけどね。
◇
午後の授業が終わり、下校の時間になった。
それはつまり、あの山田さんと一緒に帰る時間がついにやってきてしまったのだ。
まだ教室内には沢山の生徒が残っており、俺はこれからどうしたら良いのか分からず自席に座りながらドキドキしていた。
や、やっぱり俺から声をかけに行った方が良いのだろうか?
でも教室内で俺なんかがそんな事したら、山田さんに迷惑がかかるかもしれない。
ここは先に下駄箱前まで行っておき、あとで合流した方が良いのだろうか、もしくはもっと人が減ってからとか、うーん、よく分からん……。
なんて事を一人あれこれ考えていると、急に肩をポンと叩かれ声をかけられた。
「行こう、太郎くん」
振り向くとそこには、鞄を手にした山田さんがニコリと微笑んでいた。
行こうというのは、一緒に帰ろうという事だろう。
つまり昨日の話は、夢でも幻でもなかったわけだ。
「あ、うん! い、行こうか!」
俺はぎこちなく返事をして、慌てて鞄を持って立ち上がった。
すると、その光景を見たクラスの皆が一斉にざわつきだした。
―――え? 女王様が山田と!? なんで!?
―――前から山田とだけ話はするなぁと思ってたけど、あの2人もうそういう関係なの!?
―――でも今の山田くんなら正直釣り合ってない?
―――うわぁあああ、俺の華たそがぁあああ!!
―――相手が山田さんじゃ……
なんて驚愕や嫉妬、様々な声が教室中から聞こえてきた。
それは、教室を出てからも同じであった。
あの山田さんが俺を伴って歩いている事に、他のクラス、更には他の学年の人達まで様々なリアクションをしていた。
流石にこれ、大丈夫かな……? と困惑してる俺を余所に、山田さんは全く気にする様子も無く隣でニコニコ歩いていた。
俺は山田さんの隣を歩くという事の意味を、分かっているつもりだったが、全然分かっていなかった事を痛感した。
◇
上履きから靴に履き替え、一足先に外で山田さんが来るのを待っていると、山田さんの方を一人の男子がじっと見ている事に気付いた。
それは昼休みに続き、あの山崎先輩だった。
部活へ向かう途中だったのであろう山崎先輩だが、靴に履き替えている山田さんの存在に気付いたのだろう、じっとその様子を見ているのだ。
――あ、これまたタイミング悪いな
なんて思っていると、靴に履き替えた山田さんがこちらに駆け寄ってきて隣に並んだ。
山田さんはやっぱり、楽しそうな顔をしている。
それは、昼休み山崎先輩には一切見せなかった表情だった。
そんな俺達を前に、山崎先輩は信じられないものを見るかのような驚愕の表情を浮かべていた。
自分が全く通用しなかった相手が、俺なんかと一緒に居るのだから驚くのも無理はなかった。
「君たちは……」
そして案の定、山崎先輩は俺達に向かって声をかけてきたのであった――。
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