6 彼女と昇級と王都
俺たちは王都の復旧に尽力した後、元の街へ戻っていた。
報告をしに協会へ入ると、昇級するから部屋に来いと呼び出される。復旧作業でなにか問題があったのかと、心配になったが違った。
話を聞くと、今回の討伐の功績と狼煙を上げた判断力、功績度などを加味して昇級が決まったらしい。俺とユカリの冒険者証には、銀色の星が1つ付いた。
この星が3つになればさらに上の級に上がる事が出来る。俺たちは、やっと1人前だと認められたようで嬉しかった。
だが、そうなるとここでは今回のようなことがない限りは、もう星は貰えないだろう。ここには討伐系の依頼は多いが、それなりの冒険者なら掃いて捨てるほどいる。
それならば、王都に河岸替えをする方が星が貰える可能性が高いだろう。
中程度の魔物を山ほど討伐するよりも、上位の魔物を1体討伐する方が効率がいい。
王都周辺にはいくつかの魔窟と言われる場所があるし、そこなら、今行ける所よりも魔物は強いが、星に関わるような魔物との遭遇率も上がる。
それに、ユカリの帰郷への手がかりも王都の方がここより有益なものがあるかもしれないと、王都行きを即決した。結局、王都の図書館に勤めていた高齢の魔道士とやらは亡くなっていたし、ここには他に有力な手掛かりは無くなってしまっていた。
手紙を出して報告した父さんもばぁちゃんも、銀の星が付いて王都行きを決めた俺たちをきっと後押ししてくれているはずだ。そばに居れば、困難が待ち受けているだろうが頑張れと、笑顔で送り出してくれるだろう。
ばぁちゃんが昔小さかった俺にこっそり教えてくれた話だと、父さんは王都で活動していた金2つ星の冒険者だったらしく、もしかしたらまだ父さんの現役時代を知っている人がいるかもしれないと言っていた話を思い出した。そんな人に出会えたら面白そうだねと、ユカリと2人でどんな風に父さんを揶揄うか話しながら王都への道を進んだ。
王都では先ず、拠点となる長期の宿を探した。最初の頃の様に、宿を探して街を駆け廻るようなことはしなくなった。
それなりに長い期間借りれば安くなることもあって、食事や風呂などちゃんと拘って探した。俺とユカリは、運良くユカリが納得のいく綺麗さで、食事が美味しく、風呂がいつでも入れる宿を借りれた。
直ぐにでも協会で仕事を始め、ユカリの帰郷への手がかりも探したい。
王都には図書館が大小いくつもあって、依頼の合間合間の捜索では時間がかかる。
俺たちはしばらく、依頼と手がかりの捜索で王都での生活をこなしていった。
手がかりの人物をみつけ話を聞き、次の手がかりに辿り着くまでに半年。
そこから、手がかりとなる王宮図書館に転移魔法について書かれた本を見せて貰えるまでに半年。
現在存命の転移魔法の使い手を探し当てるまでに、1年。そこまでは、長くもあり辛くもあった。
それでも、前に進めていると思えば乗り越えられた。いつの間にか、星も銀1つから3つに変わっていた。
父さんに追いつくまで、あと数年かと思えるほどに俺もユカリも強くなっていた。
俺は20、ユカリは23。ユカリが少女から女性に変わり、俺が少年から男と言われるには十分すぎる歳月が流れた。
それでもユカリは諦めなかったし、俺も変わらずユカリを帰してやりたかった。
ユカリが故郷を思い出して歌う月の歌は、俺の耳に慣れて歌える様になる程に聞いていた。
その度に、泣きそうな笑顔を見せるユカリの顔には、未だに胸を締め付けられて苦しくなる。
いっそ希望が潰えたら、あの悲しげな笑顔を見なくても済むかとも思うが、その時のユカリがどうなるのかが怖くて、俺もユカリが帰るための希望を捨てられない。
何度も、何度も、ユカリに想いを伝えて、帰るのを諦めて欲しいと願おうとした。
俺が相当に勘違い野郎でなければ、ユカリが俺を一人の男として見てくれていると感じている。
それでも、伝えられなかった。
きっと、ユカリの望みが潰えるまでは伝えられないだろうと思っている。
ただ、その時はその時で、弱味につけ込むような気になって言えない気もする。
俺は、生まれて初めて明日が来るのが怖いと思った。
転移魔法の使い手の王宮魔道士に、明日、会うことが決まったからだ。
その人は、稀代の天才と呼ばれる魔道士らしく、王宮でもかなりの地位にいるとの事で、会うまでに何日も前から申請しなければならない様な人だった。
申請が通ったのも、俺とユカリがそれなりに名の売れた冒険者になれたからだ。
その人に不可だと突きつけられたら、そこまで頑張ってきた事を否定される様な気がする。
ユカリの生きるための糧が無くなってしまいそうで、俺は夜明けが怖かった。
俺は、布団に入っても眠れず、結局もぞもぞと寝返りを繰り返して朝を迎えた。
そして、俺の不安は的中した。
王宮魔道士は真摯に話を聞いてくれたし、ユカリの身の上を話してもいいと思えた。
彼は、時々ユカリの様な人が今までもいたこと、どの人も稀有な能力を持っていたこと、時に英雄と呼ばれた人もいた事などを教えてくれた。
それでも、1人として元いた世界には帰れなかったと言った。時空間を超える様な大きな事は、神と呼ばれるような存在にしか出来ないと。
冒険者が使うような魔法袋程度の空間の拡大や時間の流れを一定の空間だけ緩やかにするような事は出来るのは知っていたから、それの延長では無いのかと食い下がってはみたが、それとは全く次元の違う話だそうだ。
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