5 彼女と魔物の氾濫
俺の故郷の辺境を離れて1年、俺たちは王国の第三都市に拠点を構えていた。
王国にある巨大都市の1つ、周辺の魔物の生息数が特段多いとされる国境の防衛を任されている都市。
ユカリの魔法の腕前と父さん仕込みの俺の剣は、次世代を担う冒険者になれるかもしれない人物として少しは名前を知られる様になっていた。
討伐の依頼が多いここでは、戦闘力が物を言う。
それだけに、腕に自信のある冒険者が多く切磋琢磨する相手には事欠かない。
小さな賃貸住宅も借りて、本腰を入れて依頼と手がかりを探した。
仲良くなった冒険者や協会の職員に、何度も依頼を出してくれる商隊からも情報を集め、王都の図書館に勤めていた高齢の魔道士が転移に関する魔法に明るかったらしいとの情報を得て、俺たちは昇級を目指していた。
王都でそれなりの人物に目通りを願うには、最低限の実績が必要になる。
せめて中堅の上の方と言われるほどになっておかないと、歯牙にもかけてもらえない。門前払いは、ごめん被る。
必死に、中堅冒険者たちに食らいついていく毎日だった。それでも、ユカリは笑顔を忘れない。満月の夜には外に出て、2人で歌を歌って、2人で酒を飲んだ。
この一年は、お互いに意気消沈する事も、些細な言い合いも、飽きるほどに繰り返してきた。
それでもユカリの笑顔と諦めの悪さと、俺自身がこの身に誓った約束に助けられてきた。それは、これから先も何年経っても変わらないと、最近強く感じている。
そんな日々の中、その日は朝から協会が騒がしかった。
どうやら、魔物が国境付近で氾濫を起こしている予兆があるらしい。
その調査に向かう冒険者を、募っていた。我も我も名の知れた冒険者たちが名乗りを上げる中、仲の良い職員が俺たちにも声をかけてくれる。
もちろん、引き受けた。俺たちの腕と森での情報処理能力を見込んでくれていると知れば、俄然やる気も出てくると言うものだ。
早速、準備を整えて予兆が見られた付近の森から国境の山脈の方向に向かう。
他にも何人もの冒険者が放射状に散って、氾濫の情報を集めている。
山脈方向には、俺たちを含めて5組が探索に出ていた。探索範囲をずらして、しらみ潰しに捜索した。
捜索3日目、協会の決めた期日も折り返しを迎えた頃、山脈方向に出ていた別の冒険者が緊急事態を伝える狼煙を上げた。
そこからは、緊急事態と救援要請を協会に伝わる様に狼煙を伝播させて最初に狼煙を上げた冒険者を助けに動いた。
彼らは、何度か共同依頼を受けた顔見知りで、氾濫の第一波とも言える魔物の大群を見つけて、食い止めようとしているところだった。
俺とユカリも、剣と魔法で彼らと俺たちの後に駆けつけた冒険者たちとも連携を取って必死に戦った。
魔物たちは獣型が多く人型や飛行型はほぼ見られなかった事が幸いして、次第に数を減らしていった。第二波となる本隊の進行までは、多少は時間が稼げだはずだ。
交代の救助部隊が来るまでの警戒を続けながら、少しずつ魔物がやってきた方向へと前線を押し上げて行った。
しばらくすると最上級の冒険者の何組かを中心にして、氾濫の包囲網を完成させることに成功した。
前線を維持していた俺たちは短い休息の後、包囲網の端に再編成された。
氾濫の中心は恐らく、山脈にある洞窟だとの事だった。大きく左右に翼を広げた形で、左右の端を少しずつ押し上げて洞窟を取り囲む作戦らしく、俺たちは向かって右手の翼の先端付近で氾濫の本隊とぶつかった。
最前衛と後衛との交代を繰り返して、休憩をとりながらの攻防は5日目に差し掛かっていた。
倒しても倒しても、押し進んでは押し戻される一進一退を繰り返していた。それでも、ジリジリと洞窟に近づき魔物は数を減らしつつある。
俺もユカリも、覚悟ならいつも持っているが、疲労で死ぬのは本望ではない。なりふり構わず、必死に一体一体潰していくことに集中していた。
そんな極限状態の中、伝令の冒険者が最上級の冒険者が洞窟にたどり着き、中に入ったと教えてくれた。
もう少しで一息つけるのだと安堵のため息を漏らした俺達の頭上を、得体の知れない大きな黒い影が通り過ぎて行った。
振り返って影を見ると、何体もの飛龍が第三都市ではなく王都の方角に向かっていく。前方で赤い狼煙が3本上がっていた。
狼煙の数は、多いほど緊急度が高い。国家の危機になるほどの災害時には黒色の狼煙を挙げる決まりだ。
前方からは飛竜の向かう先が読めなかったのかもしれないと思い、ユカリや近くにいた冒険者達と相談して黒い狼煙を3本上げた。
どう足掻いても、俺たちの足では飛龍の飛ぶ速度には敵わない。
王都にいる冒険者や騎士たちに頑張ってもらう他ないのが、俺たちの現状だった。
そこからの俺たちは、なるべく早くこの付近の魔物を掃討して街に戻り、現状を伝え、王都への加勢か後詰に徹するのがいいと判断して動いた。
1組の冒険者達が、前方や指示役の冒険者に伝令を伝える役を買って出てくれた。俺とユカリは、街へと戻り協会に報告をした。
考えた通りに後詰めに参加することになった俺たちは、王都への道すがらの魔物も何組かで交代で倒しながら進んだ。
満身創痍状態で辿り着いた王都では、飛龍の死体と市街戦となった後の王都の瓦礫の山を目にした。
流石は王都の冒険者と言うべきか、飛龍討伐は早かったそうだが街の人々は避難先から戻って自分の家の惨状に頭を抱えていた。
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