3 彼女と修行の日々
ユカリは、色々な事をすぐに覚えた。
故郷にあったものと似たような形や使い方だったり、食べたことがある様な味だったりすることが幸いしたようで、中々ここでの生活を楽しんでいる様だった。
中でもばぁちゃんとの魔法の修行は面白いらしく、しばらくすると家事も生活魔法を駆使して行うことが出来る様になっていた。
特に楽しくて好きなのは、皿や服を洗う洗浄魔法だそうだ。
俺には何が楽しいのかわからないけど、ユカリのいた国には魔法が存在しなかったと聞いて何となく納得する事にした。
ユカリが家の中の事は全般出来るようになってきた頃、俺は父さんが次に帰ってきたら狩りに行ってみようと提案した。
ユカリは、「喜ばしくは無いけど、出来ないときっと困るから頑張る」と言って、真剣な顔をしていた。
俺も1人でならこの辺りの魔物は難なく倒せるが、ユカリの補助をしながら守りながらだと不安が残る。
「父さんが居てくれるなら、安心だから行ってもいい」とばぁちゃんも言っていたし、早く父さんに帰ってきてもらいたい。
父さんが帰ってきたのは、ユカリとその話をしてからから4日後だった。
父さんもそろそろだと思っていたらしく、すんなりと森の中程で腕試しをする事になった。
当日の朝、ユカリは朝食をあまり食べなかった。緊張しているらしい。
そんな所も可愛らしいと、微笑ましく思ってしまった。
最近になって、ユカリの笑顔が少しずつ増えてきた。ユカリは、些細なことでよく笑う。
この前も隣のおばちゃんと花の世話をしながら笑っている声が聞こえたし、ばぁちゃんと一緒に風呂に入ってばぁちゃんの歌う調子の外れた歌を聞いて笑っていた。
俺は、ユカリの笑顔や笑い声が好きだ。いつも見ていたいし聞いていたいと思う。
でも、それをユカリに伝えて困らせたくは無かった。
ユカリは、元の世界に帰りたがっているし、俺は年下でユカリが俺を元の世界にいる弟の代わりの様に思っていることも知ってしまった。
辛くないと言えば嘘になるが、それでも良いと笑顔を見る度に思う。
だから、ユカリが村のおっちゃん達に可愛がられていても、花やお菓子を貰って喜んでいても、たまに来る商隊の兄ちゃん達に一緒においでと誘われて照れていても、危険がない限りは何気ない素振りでいられるように修行しようと思っている。
実際、たまに父さんにもその平常心を保つための心得を教えて貰っている。
父さんとユカリと3人で森の中を歩く間に、父さんから森の歩き方や獲物の痕跡、食べられる木の実や薬草について教えて貰った。
俺も中々父さんに実践で教えてもらうことは少なかったから、知っていることばかりでも意外に楽しかった。
それに、俺にはまだまだ知らない事が多くあるという事もわかった。
結局、遭遇したのは野ウサギ1匹と猪が魔化した魔猪1匹だけだったが、ユカリは精神的に疲労困憊の様だった。
生き物を殺す事も無かった世界で育って、殺さなければ生きていけずに死ぬ世界で生きていくのは、ユカリにとって大変なことなのだと、初めてちゃんとわかった。
俺は、慣れた手つきで野ウサギを解体した。
血抜きも皮を剥ぐのも、父さんとばぁちゃんに小さい時から教えられている。
魔猪は、数ある食べらる魔物のうちの1つで、味は中々に美味い。
そっちは、父さんがあっさりと解体して肉を包んでいた。
まだまだ敵わないなぁと、心の中でこっそり考えて悔しくなった。
初めての魔物の討伐の記念だと、父さんがユカリに魔猪の魔石を渡すと、ユカリは微妙な顔をしながらも受け取った。
実際ユカリは勘が良く、今回の魔猪戦では、父さんと俺の動きに合わせてばぁちゃんに教えられた風の魔法でとどめを刺していたから、魔石は文句無しにユカリの物だ。
そういう事も冒険者として覚えるべきことだと、父さんにも言われていた。
ユカリは納得した顔をして受け取ったその魔石で何かを作りたいらしく、帰ってからすぐにばぁちゃんの所に行って相談していた。
夕方に村に戻ると、ばぁちゃんに食事の準備を任せてユカリは風呂に入り、俺と父さんは森で集めた素材を換金しに村長の家に来ていた。
村長は、父さんよりも少し年上で恰幅がいい。そして、素材の目利きに厳しい。
思ったよりもいい値段で引き取ってくれて、俺と父さんはホクホク顔で家に戻った。
家では、ばぁちゃんとユカリが食事の用意を終わらせて待っていてくれた。
4人で食事をして、今日の反省会と成果の報告会をする。
俺もユカリも、沢山学べたと思うと言う父さんの言葉に2人で顔を見合わせてニヤリとした。
疲れただろうからと、いつもより早めにベッドに促されて寝室に戻る。
階段を上がる時に、ユカリと「いつか、父さんに認めさせてやろう」と、約束した。
さすがの俺もユカリのはじめての狩りに気負っていたのか、ベッドに入るとすぐに眠気に襲われた。
こういう所がまだまだ子供なのだと、悔しくもなる。それでも、眠気には勝てなかった。
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