第10話 真実へ


ニャルコさんは食堂の仕事があるので、なぜか俺は二人のイケメンを案内することになった。と言っても事の顛末を簡単に説明するだけだ。

「いや、実は、そのバス見たのって、俺の知り合いなんですよ」

なんと、今頃になってネタ元がくるとは、マスオドンとしては、ちょっと恥ずかしい。なんといっても、#消えるバスなどといって、マイクロバスの写真を撮って煽っていたのを、ニャルコに見つかって、嘘つき呼ばわりされて画像を消す羽目になったのだから。

まあそのやり取りが、ダイレクトメッセージで済ませられたのは、ありがたかった。写真を消したら、結局そのあと、ニャルコさんとはアシタカの食堂の話で意気投合したのだから。

「じゃあ、見間違いではなく、路線バスは通ってるんだ。なんだ」

マスオドンは、冬季はラボも休業期間が長く、ゲートが閉ざされていて、分岐から先の林道も冬季閉鎖で使えないことを教えた。ラボは例年、3月前に再開するとのこと。

よりイケメンなほうが、少しがっかりしているイケメンの肩を抱いて慰めていた。

「まあ、メシ美味かったし、いいじゃん。景色も悪くないよな、ここ」

ふたりは次の立ち寄り場所を相談しながら、なんでもないようなことが楽しいことのように車に乗り込んでいった。めずらしい若い二人連れを、軽トラで昼食を食べに来たニャルコさんの旦那も見送りながら、俺も車に乗った。



 そんなことで、村にわざわざ遊びに来る若い人がいるんだな、と、思ってしまった。知らないところで村おこしされていたとは。しかし、まあ大変な一件ではあった。どっちにしろ不審者を呼んでしまったわけだ。

 ショウゴが村の畑をパトロールしているとき、やはり見慣れない自動車と人影に出会った。住民以外が来ていると、すぐわかる。釣り客は来るが、観光客はほとんど来ない。キャンプなども、もっと下流にいい場所がたくさんある。ショウゴにとっては、ちょうど10月は最終の収穫期を迎えるのでかなり神経をとがらせている、ということもある。

その不審な来訪者が、村をすこしぶらぶらしていたのは確認したが、日が傾いても立ち去ろうとしなかったのですこし気にしていた。なにをするでもなく、ただ夜を待っていたのだ。

 夜中にパトカーの音が鳴り響く。駐在所から山の上のほうへ出動していくのが分かった。ふもとの町からも、セキュリティの会社のパトロールカーがほどなく山へ登っていくのも聞こえた。外に出て見上げても、真っ暗で、その夜、何が起こったのかはわからなかった。

 のちに聞いたところでは、その不審者が夜中にラボに忍び込んだとのことである。すぐに取り押さえられて事情を聴いて、本社工場の偉い人が最終的に対応したそうだ。

連絡を取るようになっていたニャルコに事の顛末を簡単に送ると、噂になっている#

真夜中の路線バス、のことを教えてくれた。たしかに、あの山の上の工場では、夏の超大型繁忙期に、夜勤のために路線バスを運行させていた。三交代でフル稼働しているそうだ。マスオドンによると、カチンコチンさんがいなくなったから、自分が現場に突撃したなどと供述していたそうだ。村で聞いたらしい。


 しばらくして、ニャルコとマスオドンが村に来るようになり、あろうことか、一回り近く年下のニャルコが嫁に来てくれた。

工場の深夜路線バスのおかげで、人生が変わったと言っても、過言ではない。


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