第9話 新婚


今日は天気がいい。祝日だ。アシタカの村は本日も平穏。

山あいの村なので、朝晩は冷えるが、凍結することもなく、意外と過ごしやすい。アシタカで過ごす、初めての冬。

久しぶりにマスオドンが遊びに来ると言っていた。知り合うきっかけは最悪だったけど、今は仲良しだ。いや、結婚したわけじゃなくて。いや、結婚したけども、ショウゴさんと。

冬は農作業がお休みだから、食堂の手伝いをしながら、ふもとの料理学校へ通っている。ショウゴさんの果物を使って、おいしい料理や、お菓子が作れるようになりたいと思っている。甘い考えだと言われるかもしれないけど、村の高級高品質な特産品を生かして頑張れば、ぜったい悪いほうへは進まないはず。がんば!

おっとぉ?!珍しく二人連れの美しい若い男性客のご来店!正直美しいのも若いのも、この村に欠けている重大な要素…ぴえん!

「じゃあその、日替わり定食をふたつお願いします」

えー、何しに来たんだろ。釣りって言ってもほとんど禁漁期間だし、あとは、ハウスのイチゴとか?いやまさか、ここには来ないよね。もしかして、移住希望者とか、きゃっ!リモートでどこでも仕事できるしね。ありえるー。

静かだけど楽しそうに食事を進めるふたり。ふたりが食べている間に、マスオドンも来てくれた。おかみさんの切り干し大根とか、ひじきなんかの素朴な煮物の小鉢が本当においしいんだよね。

「そうか、じゃあ冬場はゲートが閉まってるから、通り抜けに上の山道は使えないね。」

マスオドンは、休日にここでおいしいものを食べて、ぶらぶらしながら帰りにアシタカの温泉に寄るのが気に入ってしまったらしい。ドライブがてら山の中腹の林道を抜けていくのが好きみたいだけど、冬はゲートが閉まっているところがあるってショウゴさんも言ってた。

「すみません、その山の上って、ちょっとしたラボがあるところですよね、さっき通れなくて」

マスオドンとの会話が気になった、ということは、もしかしたら、こんな二人も、アレ目当てで来たのかもしれない。信じられない。

「えっ!消えるバスのこと、知ってるんですか?」

驚く二人に、なんと言っていいか、私は、ついマスオドンと目を合わせてしまった。

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