第7話 タイスケ

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 「辞めたんだって。たしか結婚でもしたような。」

タイスケは最近見ないとおもっていたニャルコが、会社を辞めていたことを知った。いや、もし結婚したとしても、会社辞めるか?もったいない。でもいいよなあ、家族がいないと身軽だよな。どこでも好きなところで暮らせる。まあ確かに、周りのやつも、独身が楽しそうに見える。別に、俺も、楽しくないわけじゃないし、むしろ幸せなんだと思うけど。違うんだよな。早く結婚したいといか言ってるヤツはすごく楽しそう。充実してるっぽい。別に俺だって、充実している。結婚したいって言って、必死で婚活してるヤツみると、そこまで頑張るほどのもんじゃない、とも思う。別に結婚しなくてもよくね、って言ってるヤツには、しろよ!って思う。

 ニャルコは別に親しくはなかった。近くにいれば話をするくらいのことはあった。だからアシタカの話をされた時には、わざわざ呼び止めて話しかけられてキョドってしまったが、まあ確かに、俺に聞くべき内容ではあった。ちょっとアシタカ、怪談で調べてみたら、聞いたこともない謎のストーリーがきっちりでてくるではないか。確かに、20年近く村を離れてはいるけども。

 村のはずれに、なにかの工場があったことは事実だ。変なところにあるとは思うが、今考えれば、トンネル抜けてちょっと走れば高速のインターにアクセスできるから、そこまで不便な場所ではない。平地が少ないから工場誘致が難しかっただけだ。小規模な設備でいいなら、水もきれいだし気候もいいし、製造業にはまったく悪くない村だった。

 かなりきっちりした工場だったから、防護服なんかみたことのない子供が、おかしな噂で楽しんでいたんだろう。妻が言うように、「動物実験」の場所、などと。その当時ですら、「昔」の話としてはしゃいでいただけだ。

 タイスケはマップで工場があったあたりを確認する。ここから、国道で峠を越えてしばらくしたら、道を外れて村に入る。村からアシタカ山方面へ山の中腹を回り込む道の途中に、いまも工場のような敷地の四角い建物が残っている。現在は沢の扇状地に数件家があり、沢を取り囲むようにある山並みは、それぞれに所有者がおり、畑や果樹園として利用されている。もちろん耕作放棄地も増えた。村の南のアシタカの裾野に近いほうは途中から工場の企業が所有している土地になっているはずだ。北側の山の斜面から東に向かい日当たりのいい広めのなだらかな場所に工場がある。


 「ニャルコってアシタカに嫁に行ったんでしょ。全然結婚しなそうだったのに。」

タイスケは驚いた。そんなことがあるわけない。アシタカに若い男など、いない。もちろん40歳以下が若者だ。ちなみに50代も若手である。

「いや、そうだっけ?でもアシタカってのは、ホント。別に仕事辞めなくても、よくない?って話はしたから。」

 学生ならともかく、社会人でここからアシタカなら、1時間以内で通勤可能だ。田舎にしては遠いとは思う、確かに。たぶん、俺にアシタカの怪奇現象を聞いてから、なにか縁ができたんだろう。間違いない。9月の終わりくらいだったっけな。3か月以上経っては居るが、たった三か月だ。人生ってすごいな。

タイスケは、俺もそのうち故郷の村でも見てこようかな、と思った。

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