第5話 ユウタロウ

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ユウタロウは、しばらく前に自分が広めたアシタカ山の怪談話が、めぐりめぐって自分に戻ってきたことに気づいた。ホラーチャンネルにネタ投稿したのって、もう夏、というか9月よりちょっと前だったはずだ。もうすぐ今年も終わる。


「アシタカ山の麓の村で、真夜中にトンネルを抜けると、路線バスが現れる。真っ暗な道を、しっかり何か書いてあるはずなのに、なぜか読み取ることができない行先を示した電光掲示板を光らせながら、バスはある場所でふと道を逸れてそのまま消えていく。

バスには何人か乗客がいるのだが、何人乗っているのか数えようとすると、数人であるはずなのに何人なのかわからなくなる。バスを見つけて、そのまま行先の方面について行ってしまった車は、同じように消えて戻ってくることはないという。」


アシタカ山の路線バスが現れるのを目にしたドライバーは、一種の異次元、パラレルワールドに迷い込んでいるという説が有力となっていた。山道のトンネルで異次元に入ると路線バスに出会い、そのまま何事もなくバスを見送ると、現実世界に戻っているというのである。


なるほど、と感心しながら、ユウタロウは、この話は髪の毛爆発マンから聞いたことを思い出した。最近連絡を取っていなかったのは、べつに自分の髪の毛が爆発しないからイライラするのだ、という訳だけではない。いや、そうではない。

「マジ今日も大爆発だし!どうしたの」

髪の毛の話は別に聞きたくない。

「はぁー?消えるバスのはなし?ウチ知らないけど」

いや、俺様は馬鹿ではないから、お前から聞いたことは覚えている。しかし言った本人が忘れているくらいの話が、なぜここまでしっかりした怪談になっているのだろう。まあ爆発マンはホラーには全く興味がない人間のようだから、酔っぱらって口走っただけのことかもしれない。しかも別にその現場となっている地域にも縁もゆかりもないようだ。

「そういう気持ち悪い話キライだからさーマジ勘弁」

そもそも髪の毛爆発マンから始まった話とは限らないのだからこれ以上なにか聞き出せることもない。

「あーでもなんかしばらく前にも聞かれたわ、誰に聞いたのかって」

俺様以外にも!この路線バスの謎を解き明かそうとしている人間が!いる!しかも俺様よりも早く。

「そんなの覚えてるわけないしー」

たしかに、そこそこ考察されている様子はある。こういう異次元に迷い込んだ系は、なんとか駅というのでも有名だったから受け入れられやすいのかもしれない。

まあ俺様も、アシタカのことはよくわからない。もともとあった都市伝説に、たまたまアシタカの地名が付いただけのものかもしれないからな。ついでにもう髪の毛爆発マンのことも忘れてしまおう。それに、バスが消滅したのをみた、というよりも、消滅したバスに乗っていて、なんとか戻ってきた、とかいう話のほうが面白いかもしれない。そうするともうホラーではなくて異世界転移だな。ユウタロウは思った。


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