第4話 人体実験
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「え~、タイスケくん、もうけっこう昔だけど、たしか山のほうで、人体実験やってるとか噂なかったっけ?」
そんな噂ねえよ。人の村、いったい何だと思ってんだ、この嫁さんは。
タイスケは呆れて、たばこの箱に手を伸ばした。
「ベランダにでてよね~。」
タイスケは、アシタカの村に、中学卒業まで住んでいた。そのころまでに、わりと高齢だった父方の祖父と祖母は相次いで亡くなり、高校までは1時間以上かかるため、町に引っ越したのだ。父親の勤め先も市内にあり、ともに長い移動時間から解放された。町中の新しい家に引っ越して住み、タイスケは高専を卒業してそのまま地元の製造業に就職した。
村の祖父母の家と田畑を処分して、市内に家を建てて付き合っていた女性とそのまま結婚して、女児がひとり、現在に至る。
アシタカの小学校は、タイスケが卒業したあと、ほどなく廃校になり、みんな隣町の小学校、中学校へ進学した。中学は、部活の朝練があったから、スクールバスにも乗らず、自転車で中学校まで通っていたことを思い出した。なんだかんだ、もうちょっとで引っ越してから20年も経ってしまうのだ。それでも人体実験はないわ。昭和通り越して、明治だろ。むしろSFだろ。
煙草を吸いながら庭を眺める。加熱式のたばこだが、周囲に副流煙に文句を言うような住宅はない。郊外の自然豊かな場所にある、のんびりとした一軒家だ。祖父母のおかげで苦労なく家が持てた。
「ねえタイちゃん、ほら、人体実験じゃなくて、なんか動物実験の化粧品の実験室がなかったっけ?」
窓を開けて言う妻の言葉に、タイスケは胸がざわざわするのを感じた。
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