第8話

ーーDAY1ーー


口をパクパクしながら、隣を見ると扉のかげから奈月が顔を出している。

アイコンタクトで「どうなってるの!?誰この人!?」とやり取りするが、奈月は顔をブンブン横に振るだけだ。


テーブルの上には朝食とお弁当が4つ用意されている。


「あの、、、どなたでしょうか…?」

私はおそるおそる聞いてみる。


爽やかイケメンは少し小首をかしげて言った。


「今日は3人ともどうしたの?僕に対するあたりが強くないかい?『陽一』だよ、君の夫だろ。」


(エェェェェェ!?)


似てるところが1つもない…顔はもちろん、体型もスラッとしていてテレビで見る俳優さんのようだ。それに夫は39歳だが、彼はどう見ても20代後半、見ようによっては20代前半にすら見える。


「おっと、時間がそろそろヤバいかな。美穂ちゃん、唯ちゃん、なーちゃん、みんな朝食だよ。席に着いてー。」


時間がないのは事実なので、私たちは混乱しながらもとりあえず席に着く。


「「「「いただきます。」」」」


朝食はご飯、お味噌汁、ほうれん草のおひたし、それに竹輪の中に切ったキュウリを入れたものだった。

ほうれん草のおひたしをひと口食べてみる。


美味しい。


唯と奈月も同じ感想なのだろう。奈月は目を見開いて思わず呟いていた。


「美味しい。」


彼は微笑みながら、


「美味しいかい?それは良かった。あ、なーちゃんは今日も部活だよね?お弁当はガッツリ系入れといたからね。」


奈月は目をぱちくりしながら、


「…私、部活行っていいの?」


「何言ってるの?大会近いんだよね?行っていいに決まってるでしょ。頑張って!」

彼は優しく微笑みながら言った。


奈月はポロポロ涙をこぼしながら、「うん…うん…」と頷いていた。


それを見た彼は、奈月の体調が悪いと思ったのだろう。急に席から立って奈月の方へ向かった。


「なーちゃん、どうしたの!?どこか具合でも悪いの?」

奈月のおでこに手を当てながら、「熱は無さそうかな…」と言っている。


「だ、だ、大丈夫!……ありがとう。」

顔を赤くしながら奈月は答えた。


手早く朝食を終えた唯と奈月はお弁当を持って、


「「行ってきまぁす!!」」

元気良く学校へ行った。声が明るかった。


「さてと、僕ももうすぐ仕事へ行かないと。美穂ちゃん。お昼はここにあるお弁当食べてね。今日もお仕事だっけ?無理しないでいいからね。それじゃ、行ってきます。」



一人取り残された私は、混乱しながらも声に出して状況を整理した。


「えと、夫が爽やかイケメンになって、でも陽一さんで、唯も奈月も理解できてなくて…」


全くわからない。何か重要なことを忘れている気がするけれど、それが何か思い出せない。


結局午前中は、そのことに気を取られて他のことが手につかず、夫?が作ってくれたお弁当を食べてパートに向かった。お弁当は冷蔵庫の残りを使ったはずなのに、見た目も栄養のバランスが良く、何よりとても美味しかった。



いつも通りのパートを終え、買い物を済ませて帰宅すると夫が先に帰っていた。


「美穂ちゃん、おかえり。お仕事お疲れ様。ゆっくりしてね。お茶淹れるから。」


爽やかな笑顔で私に微笑みかけてくれる。


「あ、ありがとうございます。お茶なら私が…」


「あはは、なんで敬語なの?大丈夫、座ってて。夕食の準備もおおかた終わったところだよ。」


(エェェェェ!!?こんな夫存在する?私、実は死んでて天国にいるとか…?あっ、きっとソレだ。あれ?でもパートは普通にあったよね…天国にパートとかある?)


夫に促されるまま、座ってると夫が温かいお茶を出してくれた。お茶まで美味しい。そうして、リラックスしていたら唯が、そのすぐ後に、奈月が帰って来た。


「唯ちゃん、おかえり。お腹すいた?すぐご飯できるからね。あっ、なーちゃんもおかえり。じゃあご飯仕上げちゃうね。」


夫は2人を出迎えると、フライパンに油をひき、卵を割ってかき混ぜご飯を入れて…夕食はチャーハンと麻婆豆腐、それに棒棒鶏。


2人が着替えておりてきたあと、4人で

「「「「いただきます!」」」」と言って食べ始めた。


食べながら、夫がみんなに話を振る。


「唯ちゃん、勉強は順調?わからないところがあれば聞くよ。遠慮なく言ってね。」


唯はまだ様子を見るつもりだろう。「うん…大丈夫。」と答えていた。


「なーちゃん、部活の調子はどうかな?全力で頑張って!応援してるよ。」


奈月も同じような反応だ。


そして夫は、


「あっ!!忘れてた。ちょっとみんな待ってね。」と言って何かを取りに行った。

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