第6話

〜奈月視点〜



夕食後、私は部屋で声を押し殺して泣いていた。

あの、クソハゲデブの『謹慎』という理不尽なたった一言だけで、女子テニス部の副部長の私がクラブ活動に出ることができない。


(クソが!あのハゲデブ気持ち悪いんだよ!!なんで、なんで私が!!!)


(あぁ…京香ごめん…次の大会全力で頑張ろうね!って約束したのに……)


3日後、市大会を控えている。だけど、もう出ることはできない。ダブルスのパートナーであり、親友である京香に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、また涙が溢れてくる。



私はお風呂にも入らず、自室でずっと暗い気持ちで沈んでいた。寝ようにも全く寝ることができない。

ふと思い出す。中学1年生のとき…


「お母さん、私テニス部に入りたい!京香も一緒に入るんだ!!」


「あら、そうなの。それは良いわね。2人で県大会優勝とかしちゃう?」と、お母さんは嬉しそうに言った。


「それでね、ラケットとかユニフォームとか色々必要になるんだけど……」


その頃には、ハゲデブが生活費を入れてないことを私は知っていた。自分の持ち物や服が姉のお下がりで擦り切れていたり、下着だって5年生から同じものだった。


「大丈夫よ、準備するわ。奈月が頑張るんだから安いものよ。」と、お母さんは全く困った顔を見せず笑顔で言ってくれた。



それから1週間後、お母さんは本当に全て揃えてくれた。でも、お母さんの体のあちこちに痣ができていた。お母さんに聞いても「何でもないのよ。」としか言わない。


唯に聞くと、絶対お母さんに言わないことを条件に教えてくれた。

やはり、クソデブはお金を出さなかったようだ。「そんな娯楽に金なんか出せるかッ!!」と。

どうしてもダメだったお母さんは義実家まで行き、頭を下げて頼みこんだ。

義実家はクソデブの家族だけあってアイツと同じ。最初はお母さんを非常識だと罵った。お母さんが、「奈月の為ですから…お願いします。」としつこく食い下がると渋々出した。

それがクソデブの耳に入り……ということだそうだ。



私はその時から、お母さんのことを助けると心に決めた。今はまだ何もできないけど、大人になったらお母さんだけは必ず助ける!!

だから今日のことも京香には悪いけど、後悔はしてない。

でも、心が折れそうになる。



(私、たくさん我慢してきた…お下がりだって、携帯持ってないのだって、下着が古くたって文句言わなかった。テニス部員みんなで打ち上げ行くときだって私一人行けないのだって。)


(ずっとずっと我慢してきた…それなのに、、、これからもクソデブに支配されながら生きていかなきゃいけないなんて……こんなことならいっそ…)



(死にたい!!!)



そう思った瞬間、私は深い眠りに落ちていた。

時計は4時44分を指していた。

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