Remember-24 茶会問答/独りの少女と向き合って。
廊下の空気は外よりは暖かいが、国王の部屋と比べるとやはり冷えている。その静かな空気を横切る感覚は、とても心地が良くて心が落ち着く。
『国王様が警備を外に回してくれたお陰で動きやすくなったな』
「ひょっとすると、見回りの兵士が少ない理由って明日に備えているからじゃないのかな。だとすると城の兵士が少なくても納得――」
『……その作戦のために、城の見回りの兵士まで削らないといけない国の戦力ってどうなのさ』
「――訂正、やっぱこの国は兵士が明らかに不足しとるわ」
白い大理石の上に敷かれた赤いカーペットの上を歩く。
大理石の上を歩くよりも足音が出ないので忍び込む分にはありがたい。あとフカフカとした踏み心地は歩いていて楽しい。
「……魔法が無ければ、本当にシャーリィは幸せになれたのかな」
『……? ああ、さっき国王が言っていたな』
「でもシャーリィなら魔法があってもなくても、あの調子なのは変わらなそうだよな」
『そこは……どうしよう、否定できない』
……実際尋ねてみても、彼女なら間違いなくそう言うだろう。本当に思っていること、抱え込んでいることはともかくして。
「……さて、ここか」
突き当たりの戸を前にして、なんとなく衣服を正してみる。とはいってもサイズがやや合っていない上着を着直す程度だが、それで部屋に入る心構えは整った。
『今回は大丈夫か? ユウマ』
「む、今回はいつぞやみたいなお節介は本当に必要ないからな」
如何にも根に持っています、と表情を作って訴えかける。結果が良ければどんな道を通っても良しとする主義のつもりだが、あんなのはもう御免だ。
『本当に? 泣いているシャーリィを慰める役目なんかも、ユウマには果たせるのか?』
「……なんだそれ。まるでこれから起こることが分かってるみたいな口ぶりだけど」
『今お前は、彼女の本心に踏み込もうとしているんだぞ。それぐらいのことが起きてもおかしくないだろ』
……まあ、これから彼女の抱えている苦しみを知り、対面することになるかもしれないのだ。そんなことをしたら、確かにそういうことが起きても不思議じゃないかもしれない。
「……まあ、大丈夫だって。その辺は……なんとか上手いことやってみせる、筈」
『うん、頑張れよ。何を選ぶのか、どうするのかも全部、私はユウマに任せるよ』
ポケットの彼女はそう告げると静かになった。
これからのことに口出しするつもりは本当に無いらしい。そして、これからどのような道を選ぼうとも応援してくれているらしい。
「さて、と……前向きに行きますか」
コホン、と一度咳払い。それからシャーリィが居るであろう戸をコンコンコン、と叩く。
「……誰?」
「こんばんは、シャーリィ。入っても大丈夫か? 着替えたりしてないか?」
「え……ゆ、ユウマ!? え、ちょっと何で!?」
「お邪魔するぞー」
「え――いやいやいや! 確認しておきながら返事をする前に入ってくるのはどうなのよ!?」
戸を開けて入ると、窓際のチェアに腰掛けているシャーリィの姿があった。
彼女の容姿は普段とは違って、黒いリボンを外して絹糸みたいな銀色の髪を揺らしており、いつもの白黒の服ではなく、服屋で見たような白いドレスを纏った姿だった。
……本当にお嬢様のような容姿は、見ていると何故か体に熱が灯る感覚がする。上着が妙に暑苦しい。
「…………あんまり、見ないで」
「あ、ああ。悪い」
「……見ないでって言ったけど、別にそんな目を逸らさなくても良いわよ」
「どっちなんですかシャーリィさんや」
そう聞いておきながら多分どっちもなんだろうなぁ、なんて達観していたり。
こういう距離感はイマイチ掴めない。きっとそういうものまで俺の記憶から抜け落ちているのだろう。
「ねえ、聞いても良いかしら」
「ご自由にどうぞ」
「なんで、ここに来たの? 城に忍び込んで来たんでしょ? なんでそんなことまでしてここに来たの?」
「理由なら……シャーリィに会うためと、シャーリィと話がしたかったから」
「貴方、そんなことのために――」
「ちょっと待った。そんなことそんなことって、さっきから言い過ぎじゃないか?」
なんだか今夜のシャーリィは弱々しい。病気とか体調不良とかじゃ無くて、儚げで泡沫に消えてしまいそうな雰囲気。
……強いて言うなら、そこにいるのは年相応の女の子らしいシャーリィの姿だった。
「シャーリィの大凡の事情は聞いた。反ギルド団体に攻め込むんだって?」
「……うん。そうよ」
「……そうなの」
「…………」
「ス――ッ……助けてベル、このシャーリィ何時ものシャーリィと違うってか、なんか違和感しかなくてやり辛いんですけど」
『いやいやいや、私に助けを求めないでくれ』
どうしよう、シャーリィ双子説とか二重人格説を唱えたいぐらいの変貌だ。いつもなら彼女から何かしら話題を振ってくれるから会話が続きやすいのだが、今回はそれがないので会話が簡単に止まってしまう。
何か、何か話題になるものは――って、そうだ。
「ええっと……そうだ、これを渡せって頼まれた」
ポケットから手紙を取り出してシャーリィに差し出す。彼女はそれを受け取ると両手で持って裏表を観察する。
「……ギルドマスターから?」
「いや、国王様から」
「ああ、お父様から――えっ!?」
お、何時ものシャーリィみたいな声が戻ってきた。
……まあ、普通はギルドマスターから渡された物だと思うよな。俺が此処に来た理由もギルドマスターからの連絡だと思っても不思議じゃない。だが、この手紙を国王から渡されたって事は、それはどういうことかをシャーリィは察しただろう。
「……何、貴方。お父さ――国王に会ってきたの……?」
「会うつもりじゃなかったんだけど、事故みたいな感じで」
「…………」
困惑でいっぱいなシャーリィの顔。そんな顔されても仕方ないとは分かっていてもなんか不本意だった。それでも続きを話せば話す度に、いつものシャーリィに戻ってくれる気がして俺は話しを続ける。
的確に言葉を見つけ出して相手を勇気づける程、俺は器用じゃないからこういう方法でしか雰囲気を誤魔化す手段が無い。
「本当は誰にも気づかれないよう忍び込もうと思ってさ。城の警備もどういう訳かもの凄く薄いから、門を飛び越えて城の屋根を跳んだりして城に入ろうとしたんだ」
「…………」
「で、運良く開いてる窓があったからそこに飛び込んだ。あの時は怪盗に成りきっていたってか、そんな自分に酔ってたというか……」
「…………ッ、フ……」
「で、その忍び込もうと思った部屋がまさに国王様の居た部屋でさ。中の様子を伺ったら目が合っちゃって、思わずこう……“うおぉぉおおおうッ!?”って腹から悲鳴が出たっていうか――」
「ッ、プ……ッッ、ハ……アハハハッ!」
お腹を抱えて小さくうずくまっていたシャーリィは、とうとう堪えきれなくなって声を出して笑った。笑いながらソファに尻からストン、と座ってスリッパを履いた足でパタパタと床を叩いていた。
「は――ひ、ひ……ッ! ち、ちょっと……止めてよそういう変なこと言うの……ッ」
シャーリィは苦しそうに息をしながら、笑いすぎて出てきた目の縁の涙を指で拭った。
その声も表情も、いつものシャーリィだ。しおらしいシャーリィも新鮮な感じがしたのだが、やっぱり普段通りの元気の良い彼女が一番安心できる。
「どうしてそう……ッ、貴方って定石通りに決まらないのよ……ッ、あははははは!」
「……狙ってやった訳じゃないんだから、そんなに笑わないでくれ。本当はかっこよく忍び込んで上手いことシャーリィに会おうと思ったんだけど、その辺はどうも上手くいかなかった」
「ッッッ……ク、貴方って格好付かないわね……フフッ」
「ほっとけ! んで何事かと飛び込んできた騎士兵に見つからないように机の下に匿われて――ああほら、見てくれこの手の甲! 途中動いたからって国王様にめちゃめちゃに踏まれてさあ、よくよく見たら赤くなってるだろ!?」
「む……無理! わ、私笑い死ぬかも……ッ!」
……どうも、自分は上手いこと格好がつかないし、傷ついて泣いている彼女を慰めるような、そんな“お約束”みたいなことはどういう訳か叶わないらしい。
だけど、シャーリィが泣いて落ち込んで、それを懸命に受け止めて落ち着くのを待つことが“定石通り”なら、こうして笑っている彼女が落ち着くまで待っているこの“定石外れ”でも良いんじゃないかな、なんて思えた。
■□■□■
お腹を抱えて笑い続けていたシャーリィも次第に落ち着いて、とうとう笑い止んだ。
それでも表情はいつもの親しみやすい笑顔が残っている。あの時は見ていられない程に弱い表情を浮かべていた彼女の面影はもう、どこにもない。
「……ああ、何でだろ。馬鹿みたいに笑った」
「おう、馬鹿みたいに笑われた」
苦しそうに肩で息をしながらシャーリィは涙を人差し指で拭い取る。ピン、と弾いた涙が月光で煌めいたのが少し眩しく見えた。
「いや、ごめんごめん。でも面白過ぎて……ッ」
良いんだけど。いや、良いんだけどさ。シャーリィが謝罪しながら笑う度に内心複雑な気分になってくるのだが。
「ッ……ふぅ。で、その国王から直接渡せれたのがコレ、と」
「ああ。二枚ともシャーリィ宛だ」
「こっちは作戦の最終決定か。うん、特に何も無いわね」
「おおう、ためらいも容赦も無い……」
くしゃくしゃに丸めて小籠に入れてしまった。目を通したのが本当に一瞬だったので、捨ててしまって良いのかと思ってしまう。
……まあ、あれでもキチンと目を通している様子なので口出しする必要は無さそうだが。
「で、気になっているのはこっちの紙ね。これもお父様から?」
シャーリィの問いに俺は頷いて肯定する。それを見てシャーリィは何も言わずに手紙に視線を落とした。
「………………」
窓に背中から寄りかかってシャーリィは手紙に目を通す。
「……ねえユウマ、この内容は見た?」
「いや、読めなかった」
「読め――ッ、コホン。そう返答が返ってくるか……まあ、それなら良いわ」
「……?」
何が良いんだ? どうやら俺に手紙の内容を見られなくて安心している様子だが……?
そんなことを思っている俺を見て安心したらしい。シャーリィは手紙を手にしたままクローゼットに向かって行き、その中に仕舞われていたポーチのポケットにその手紙を入れた。
「……そうだ、ねえユウマ。少しゆっくりしていかない?」
「? ゆっくりとは、具体的には?」
「前に約束したじゃない。折角私のホームグラウンドなんだから、あの時以上の腕前で振る舞ってあげるわ」
そう得意げに言うとシャーリィは暖炉の元へパタパタと歩いて、何かガチャガチャと物音を立て始める。
何だろうかと思って覗いてみると、シャーリィは水が注がれた金属の容器を暖炉の火にかけているところだった。お湯を沸かそうとしているのだろうか――って、ああ。そういうことか。
「紅茶か?」
「正解。ユウマはそこの席に座ってて。準備ならすぐに終わるから」
お湯を沸かしている間に平行して、シャーリィは白磁器のティーポットやティーカップの準備をしていく。暫くして、お湯が沸いた頃になるとシャーリィは白磁器を温めて、それから木製の容器の中にスプーンを入れて紅茶の葉を取り出すと、それをティーポットの中に二杯、三杯と入れていく。
「……趣味でやっているんだったっけ」
「ええ、お母様から教わったことを続けていたら、いつの間にか趣味になってた。昔は“お茶なんてめんどくさい、川の水を飲んでる方が手っ取り早い”なんて言ってたんだけどなぁ」
「……シャーリィさんや」
返事は無い。でも耳は傾けているらしく、シャーリィは作業の音を小さくしてこちらの言葉の続きを待ってくれた。
「何度も思ったことだけど、本当に王国のお嬢様なのか? どちらかというとワンパク元気で、同い年の男の子と遊んで泥だらけになって親に怒られてそうな村娘――」
「――――あ?」
……おおーっと、確かな手応え。空き家の三階から捨て身の飛び込みをした時のようなやっちゃった感。やべぇわコレ。
「な、なにさ。自分でも時々お嬢様らしくないなー、って思うことは無いのか?」
「…………」
一瞬、コトコトお湯が沸く音だけが部屋を支配した。
……ベル曰く、無言は肯定って言葉が世の中にはあるらしい。多分今がそれ。
「……お城の豪華な食事はお好き?」
「……あんな油まみれな食事より、固くて素朴なパンが良い」
「そこのフッカフカなお嬢様ベッドより?」
「マナーとかベッドメイキングにうるさいベッドより、宿屋の自由なベッド――いや、藁のベッドとかが良い」
「ここみたいな色々揃った部屋の中より」
「こんな空気の悪い室内よりも、外で冒険する方がずっと好き」
「ホラ見ろやっぱりー!」
やっぱり根っこからの村娘じゃないかこの人は! 一方シャーリィも負けずにこちらを睨んで立ち上がった。カシャン、と白磁器をやや乱暴に置いてこちらに迫ってくる。
「何よ! 悪い!? 正直言って王族とかそういうのがあんまり肌に合わないのよ!」
「……まあ、そういうのは仕方ないよな。環境に合わせて性格を変えるのは性格が歪むってベルも言ってたし――だからシャーリィ、その転生を解いてお願い」
確かに国王は何しても良いって言ってたけど、揉め事を起こして良いとは言っていないのである。それに俺は転生はできるが、ガチで死んだら生まれ変われないのである。殺さないでくれ頼む。
「…………ふぅ」
言いたい文句を取り敢えず我慢しているような表情のままシャーリィは転生を解く。魔法を脅迫に使うとかどうなんだ――なんて言いたかったけど口を塞ぐ。一度助かった命をもう一度危険地帯に投げ込む勇気は俺には無い。
『……何をやっているんだ、二人とも』
「なんなんだろうなぁ……」
騒ぎがようやく収まったところで、ベルが呆れたようにポケットの中から呟くのを聞いた。
……いや、本当に俺たち何をやっているんだろうなぁ。
■□■□■
「……はい。カップが熱いから気をつけてね」
「ありがとうシャーリィ」
白磁器の心地の良い音を立てて、テーブルに紅茶の注がれたティーカップが置かれる。立ち上る湯気は香りを帯びていて、それだけで飲んでいるような気分になれた。実際は熱くて手が出せないのだが。
「……? 飲まないの?」
「飲まないんじゃなくて、飲めないの。と言うか、よくこんな熱いの持ち運べたな……」
「まあ、皿の部分は熱くないから運ぶのには苦労しなかったわよ」
そう言いながら熱湯と変わらない温度の紅茶に口を付けるシャーリィを見て、内心ヒヤヒヤする。
趣味と言うぐらいに飲み慣れているからだろう。俺には手出しできない温度でも構わず上品に飲んでいる光景は中々恐ろしい。俺だったら飲み込めず噴き出してしまいそうだ。
「…………」
……シャーリィに話したいこと。それは色々あるけれど、その根底にあるものは色々あるどれも同じだ。“シャーリィの力になりたい”。それを幾つかある言葉の中から選んで伝えるだけだが、そのタイミングがどうも掴めない。
「……あーあ、なんかさっきまでは何を落ち込んでいたんだろう、私」
テーブルに肘をついて、その手のひらに顎を乗せながらシャーリィは呟く。その目は窓の外を見ている――というよりは、窓ガラスに映った自分を見ているらしい。
「やっぱり、落ち込んでたのか」
「……まあ、ちょっとね。落ち込んでた筈なんだけど、ユウマに笑わせて貰ったらどうでも良く思えちゃって」
呑気にあくびを噛み殺しながらシャーリィはそう断った。
一体何を気にして落ち込んでいたのか気になってしまうが、本人はもう既に気にしていないようだし触れなくて良いだろう。
……そう、わざわざ掘り返す必要なんて無い――
「ああ、ごめんね。確かにこの紅茶、ちょっと熱くしすぎたかも。別に急かしてる訳じゃないから冷めてからゆっくり飲んでも――」
シャーリィの気遣いを聞きながらも、熱を帯びたティーカップの取っ手を摘まみ上げて紅茶の水面を口元に近づける。その表面に息を吹きかけて熱気を流す……が、それでもキリがなくまた熱気が湧き出てくる。
……これじゃあ、いつまで経っても先に進めない。行き先が霧に包まれたみたいに、自分がやりたいことをいつまで経っても果たせない予感がした。
「――ッ!」
活を入れるように、湯気が絶えない紅茶に唇をつける。熱い。それでも飲む。口内が痛い。
でもこうして踏ん張りを効かせる切っ掛けが無いと、いつまで経ってもこれ以上彼女に踏み寄れない確信があった。
「ちょ――大丈夫!? そんな一度に飲んじゃって」
「……ん、大丈夫。舌が少しひりひりするだけ……ってか、香りは前の紅茶よりも繊細で美味しいし、あの手この手で最大限風味を引き出そうとしている感じがするのに、汲み置きの水で入れたせいか風味が少し悪くなってた気がする」
「相変わらず呑気に感想が言える辺り本当に大丈夫そうね。あと、褒めるだけじゃなくてハッキリと言えるの嫌いじゃないわ」
じゃあなんで睨みつけるんです?
……だけど、活を入れてやっと決意がついた。前ぶりも何もなくて、突然変なことを言ってるみたいに思われるだろうけど、ここで伝えよう。俺の決めた選択を――
「シャーリィ、話しておきたいことがある。ここに来た理由っていうか、俺の決断と言えば良いのか」
シャーリィは姿勢を正してこちらを真っ直ぐに見つめる。一呼吸ついて、熱い喉を冷ましてから俺はその続きを話す。
「その反ギルド団体鎮圧? だっけ。その作戦、俺にも協力させてくれ。そして“証明”させて欲しい」
「証明……?」
「ああ。シャーリィは何かただ事じゃない事情を抱えているんだろ? 転生使いだからって理由で背負い込んでる事が。あの時、俺をこっぴどくフッたのはそういう事情に俺を巻き込まないように守ってくれたんだって、俺は解釈してる」
「い、いや、別にフッたって訳じゃ……あれ、フッてたのか……? 私」
……シャーリィがなんか関係ないところで考え込んでる。
実質二回もフられたぞ――なんて答えてしまったら、そのまま話が脱線して話したいことが話せずに終わってしまいそうなので無視して続けた。
「だけど、俺は守られるだけじゃないってことを証明したいんだ。自分の意思で戦える、シャーリィの背中も重荷も預かれるような人だってことを」
だから一人で全てを抱え込まないで欲しい、と。
でもそれは今すぐにはできないだろうから、まずは今回の件で俺に背中を預けてみて欲しい。そう熱意を込めてシャーリィに思いの丈をぶつけてみせた。
「……それじゃあ、私からユウマに面接でもしてみようかしら」
「…………ゑ?」
俺の申し出の返答は、考えもしなかった言葉だった。
面接? 面接ってようはその人材が仲間として相応しいか見極める為にするやつだよな……?
「面接って……なんでさ」
「む、なんだって良いじゃない。熱意はとても伝わったけど、仲間がどういう考えで協力しようとしているのか、その辺が分からないと命なんて預けられない。万が一、土壇場で理念が食い違って連携が乱れたら大惨事じゃない?」
「……なるほど」
そう言われると、まあ確かに一理ある。反ギルド団体の一人と戦ったが、転生使いでもないのにとてつもなく強かった。下手するとこちらが負けていたかもしれない。そんな強敵の本拠地を相手にするからこその意思確認なのだろう、なんて自己解釈。
「……じゃあ早速。ユウマは何で今回の作戦に――言い換えるなら、私に協力しようと申し出たのかしら? 責めるつもりはないけど、貴方はベルと一緒に記憶を取り戻すことを優先してたじゃない。心変わりするほどの理由があったの?」
「何でって……うーん」
いきなり返答に少々悩む質問だったが、頭の中に浮かんだ箇条書きの理由を台詞に変換していく。
確かにその辺の動機が曖昧だと、俺が同情で心変わりするような優柔不断野郎に見えてしまうからしっかりと答えるつもりで挑む。
「そうだな……まず挙げるなら……確かに俺たちは記憶を取り戻すことを優先したい。でも、一先ずそれを後回しにしたくなるほどにシャーリィの事が気になっていたから」
『一応口を挟ませて貰うけど、シャーリィが事情を抱えているって知ってからは私も同意見だよ』
そう口にして、右手の指を一本折る。シャーリィから縁を切ろうと言われた時の事が今でも鮮明に思い浮かぶ。正直言って早く忘れたい。嫌な悪夢みたいなものだった。
「それで、気になって放っておけなかったから。そんでもってギルドマスターから事情を聞いて、あんなに頑張っている女の子がそんな過酷な事に一人で挑むのは間違ってると思った」
二本目、三本目と指を続けて折る。
「あんなひたすら前向きで、頑張っているところを見せないというか、苦しそうな様子を周りに見せない性格してて。しかも自分より周りに気を遣うお人好しな性格をしていて――」
「な……ッ、っ……」
ふと、視線を上げてみるとシャーリィは顔を紅く染めて小さくカタカタと震えていた。月光で冷たく照らされているのに、紅茶みたいに顔が紅いのが見て分かる。
「……コホン、そんな傍から見れば完璧超人な性格しているけど、実際は強いんじゃなくて我慢強いって訳で、本当は年相応の女の子みたいに――」
「あ……ち、ちょっと……ゆ、ユウマ、ユウマッ、待って」
構わず続きを言うと、シャーリィは赤面するどころか慌てた様子で、小さく俺に待ってと懇願している。新緑色の瞳がグルグル回っているような。
……あ、これなんか楽しい。反応が見ていて楽しいわコレ。
「そんな他人の為に尽くせる人って俺は好きなので、シャーリィが辛そうにしているのが放っておけな――」
「――わーっ! うわーっ! あ゛ーっ!」
シャーリィは俺の言葉を遮るように大声を出しながら、テーブルから身を乗り出して俺の口に目掛けて手を伸ばしてきた。しかし如何せん身長が足りないので俺の目の前で手を空振るだけで終わっている。
「ち――中止! もう良いわよ! ッ……ぐぬぬぅ、弄って反応を楽しもうと思ったら、こっちが辱められた……そこまで想ってくれてるのは嬉しいけど」
「……何か言ったか?」
「な、何でもない! 何でもないわよ」
「念のため一応言うけど、嘘偽り無い本心だからな。そこだけは勘違いしないで欲しい。あと喜んでくれて良かった」
「な――バッチリ聞こえているじゃない!?」
見ていて飽きない反応をするシャーリィから目を離して、紅茶に口を付ける。
ちょうど良い温度になっていた紅茶はとても美味しくて、シャーリィのことも含めて印象的に記憶へ残った。
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